*...*...* Question 2 *...*...*
 何秒間、見つめ合っていたんだろう。
 知らないうちに息を凝らしていたのか、耐えきれなくなった呼吸が言葉を連れてやって来る。

「な、なに、言ってるんですか……?」
「香穂子?」
「こ、ここ、学校です。外、です。あ、あの……っ!!」
「ふぅん。……俺はお前と何度でもしたいんだけど、お前はイヤなの?」

 鋭い流し目とともに、余裕たっぷりの声がする。
 どうしていいか分からない。柚木先輩はまた、じり、と、私に一歩近づく。
 背中に当たる冷たい壁が、もう、私の逃げ場がないことを告げてくる。

「ま、待って。その……」

 先輩は私の頭越しに壁に肘をついて、覆い被さる格好になる。
 え、……ここ、で? こんなところ、で……?

 ダメ。私、きっと自分でも気付かないうちに、声を上げる。
 それに、抱かれたあと、しばらくはぐったりとして動けなくなってしまう。── いつものように。

 私は必死に目の前にある胸を押しのける。
 見るからに華奢で繊細な男の人の身体。
 なのに私の精一杯の抗う力は彼の前では何の効力もないようで、ぴくりとも動く気配はなかった。

「あ、あの……。声が。他の人に聞かれちゃう……」
「へぇ。やる気、十分なんだ」
「え? ち、違う……!」
「── どうだか」

 髪の毛をかきあげられ、耳朶が無防備にさらされる。
 そこを何度も伝う熱。
 ある時は痛みで、ある時は熱で存在を主張する。
 彼の唇が伝っていく部位は、まるで生まれたての肌のように敏感に刺激に反応した。

 どうしよう。このままじゃ私、逃げられなくなる。

「あ……」

 流されないようにと必死で身体を硬くしていると、耳元で小さく笑う声がした。

「ゆ、のき先輩……?」
「すごく楽しませてもらったよ。お前のその顔」
「はい?」
「なに? ちょっとは期待してた?」

 ── だ、騙された!

「も、もう……っ。信じられない!」

 あれほど押しのけても動かなかった身体は、最後にそっと私の身体を抱きしめた後、余裕たっぷりに離れていく。
 彼の指の動きに馴染んだ髪が、さっきとは違う感触で私の頬にかかる。
 目の前の人をにらみつける。けど、こんな涙目じゃ、なんの効果もないのかもしれない。

「ど、どうして、そんなに意地悪なんですか!?」
「おや? 不満? ── 満更でもなかったくせに」
「……先輩!」

 なおも口を尖らせてる私に、柚木先輩は言い含めるように優しく、そして憎々しげに言う。

「ご期待に添えなくて悪いけど、ここではしないよ」
「当たり前です!」


「── お前の声を他のヤツに聞かれるなんて、俺は勘弁ならないんでね」
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