「わ、土浦の指って、すごく長くない? いいよね、背の高いヤツって」
「火原先輩だって、別に低くないじゃないですか?」
火原先輩は、俺の頭に手を伸ばすと自分との差を計っている。
小さなガキみたいなその仕草は、少しの照れくささと、懐かしさを連れてくる。
って、一応先輩ポジションにいる火原先輩に、止めてくれ、というわけにもいかず、
俺はされるがままに、大人しく立っていた。
高3の今、もうそろそろ身長は止まってくれても構わないが、相変わらず伸び続けているらしい。
そういえば最近、1オクターブ以上離れた和音を、アルペジオで誤魔化さなくてもよくなった、か。
そのことを告げると、火原先輩は得心顔で何度も頷いた。
「ピアノだけじゃない。どんな楽器をやるにしたって、リーチがあることや、指が長いことって有利だよ。
可動域が広がるからね。可動域、イコール、音の豊かさだよ」
*...*...* Finger (Tsuchiura) *...*...*
初めは強く刺激すればしただけ、女も感じるものだと思っていたし。香穂は香穂で恥ずかしさも手伝ってか、なかなか言い出せなかっただろう。
ときどき眉を寄せることで痛みを伝えてきたこともあった。
優しく。メゾピアノよりもっと優しい。ピアニッシモじゃ、物足りない。
触れているか触れていないかくらいのタッチで可愛がる。
そのことに気づくまでに、俺はずいぶん香穂にツラい思いをさせていたんじゃないか。
だが……。
言い訳めいているが、今、こうして俺の下にある溶けそうな表情を見ていると、
ようやく俺も男になれたような、誇らしげな気持ちが沸いてくる。
「そうだ、香穂。お前、今度のクリスマス、どうする?」
「ん……」
「なんだ。まだツラいのか?」
「えへへ……。ごめんね。もう、少し」
フトンの端から細い肩が見える。
強引に俺の部屋に誘って、無理矢理といっていいほどの強引さで抱いた今。
こいつを抱いたことを後悔する自分もいたりする。
また、こいつの匂いの満ちたベッドで、俺は自分を持て余すのか、ってさ。
「受験も控えてるが、ま、1日くらいどこかに遊びに行くのもいいだろう。
12月なら、都内にどこかの楽団が来るだろ? お前がいいなら、一緒に聴きに行くか」
香穂はふっと柔らかい表情を浮かべると、胸元にすり寄ってくる。
まったく、いじらしいというのか、可愛いというのか。
女なんて面倒な生き物。それだけの認識しかなかったのに。
こうして1年近くも、こいつの近くにいて、また好きになるなんて。
毎日のように顔を合わせている俺でも、最近の香穂は日増しにキレイになっているのがわかる。
俺と付き合っているということが学院中に知れ渡っている今でも、
時折こいつは、年下の男に告白されているらしい。
『ふふ〜ん? 土浦くん、心配なんだ』
『ってか天羽。お前も余計な情報を流すなよ。人間、知らなくていいことなんていっぱいあるんだぜ』
『へぇ、土浦くんからそんな老成した言葉を聞くようになるとはね。
あ、そうそう。お礼は、カフェテリアのランチね?』
ちゃっかりした悪友はそう言い捨てて、またスクープネタ発見、とカメラを首に走っていったが。
……そうだ。
今みたいに身体の芯が抜けてしまったような香穂だったら聞き出せるかもしれない。
「そういえば聞いたぜ?」
「はい……?」
「お前、また、1年のオトコに告白されたんだって?」
「え? どうしてそれを……?」
「最近のお前、こう……。単刀直入に言えば、ヤりたくなるっていうか……。そういう感じなんだよな」
多少の恨めしさも一緒に、こいつにぶつけてみる。
なのに、やっぱり、というか、鈍感なこいつには響いてないらしい。
「ん……。私、断ったよ? 付き合ってる人がいるからごめんね、って」
「ふうん。……きっとそいつ、お前のこういう格好を想像してるんだぜ?」
俺はさりげなく香穂の背中に回すと身体を固定する。
そしてぬかるんだ内側に、一番長い指を差し込んだ。
「こうするの、好きだろ? 出し入れされて、ゆっくりかき回されるのがさ」
「ダメ……。今は、……っ」
『可動域』。『音の豊かさ』か。
香穂の内側が激しく収縮している。
軽く壁を引っ掻くと、香穂の声はさらに柔らかくなる。
俺は豊かになった甘い声を、自分の中に取り込むように口づけを深くした。