「えっと、あ、あの……。ダメ、ですか? このハーフパンツ」
ふわふわとした白のブラウスに、ベージュのハーフパンツ。
それに、優しげなピンク色のパーカーを着て、香穂ちゃんは申し訳なさそうにおれを見上げてくる。
い、いや、その顔も可愛いんだけど。
おれのリクエストしたポニーテールも、すっごく似合ってるし。
ハーフパンツもよく似合ってる! 香穂ちゃんが今日も可愛いのは、ちゃんとおれ、わかってる。
……だけど。
「今日は、その、遊園地でしょう? だから動きやすい格好の方がいいかなあ、って思って」
香穂ちゃんの言ってることは正しい。だから言い出せない。
だけど、ホンネを言えば。
……おれ、ヒラヒラしたスカートの下からのぞく、香穂ちゃんの小さなひざが好きなんだけどな。
いや、その、ハーフパンツっていう服から、香穂ちゃんのひざが見えない、ってワケでもないけど。
そんなこと直接伝えるのは、マニアックすぎ。
というか、そんなこと言ったおれに呆れるだろう、香穂ちゃんの反応がコワくて言えない。
「今日、お天気でよかったですね! えーっと、電車に乗っていくんですよね」
香穂ちゃんは嬉しそうに遊園地のパンフレットを広げておれに見せた。
*...*...* Legs (Hihara) *...*...*
香穂ちゃんが高3。おれが大学1年の秋。香穂ちゃんは目標に向かって、毎日、勉強だ、ヴァイオリンだって本当に頑張っているし。
おれ自身も、学生の、可愛い彼女にデート代を出させるなんて絶対ダメ、って考えから、
せっせとバイトに励んでいることもあって、2人で会えるのは、せいぜい10日に1回くらい。
エラそうに先輩風を吹かせちゃうけど、本当に受験って終わるまで気が抜けないし、ドキドキする。
だから、せめて2人でいるときくらい、おれ、香穂ちゃんに思い切りリフレッシュしてもらいたいんだよね。
「今日もいっぱい遊んだね! どう? 香穂ちゃん、楽しめた?」
「はい! とっても。久しぶりに大声出しちゃいました!」
「ははっ。あのジェットコースターでしょ? すっごく速かったよね」
「はい。それに、あの、クルって回転するところが迫力あって」
遊園地の隣りに併設されているホテル。
『別に泊まらなくたって、普通のラブホと同じように使えるんだぜ?』
なんて悪友のススメもあって、今、おれたちはその一室に落ち着いている。
普段だったら、目からの刺激、というのかな。
けばけばしいラブホ特有の内装に、香穂ちゃんの口も重くなっていったけど、
今日は遊園地の興奮がまだ残っているらしく、遊園地の続きのような無邪気な顔をして笑っている。
『音楽』が架け橋になって、おれと香穂ちゃんは知り合って。
こうして、ずっと仲良しの状態が続いているわけだけど。
──── たまには、こうして。音楽じゃない世界で楽しむのもいいよね。
「へへっ。香穂ちゃんに突撃!」
おれは、ソファの端にちょこんと腰掛けていた香穂ちゃんの胸にダイブする。
伝わってくる体温が、今、確かに香穂ちゃんはここにいることを伝えてきてくれて。
それに比例するように、おれの口も軽くなっていく。
「10日も会えなかったから、おれ、香穂ちゃん不足。ねえ、今日は香穂ちゃんのこと、おれの好きにしていい?」 「は、はい!? 待ってください! あの、なんだか、すごく大胆なことを言われた気が……」
「……きみに、触りたい」
「あ、あの! ちょっと、待って……っ」
「返事は聞かないよ? どうせおれ、聞いても応えられないの、わかってるから」
ソファから、数歩離れた先に広いベッドがあるっていうのに。
そのベッドで抱いた方が香穂ちゃんを大事に扱うことができる。そんなこともわかっているのに。
今日もおれは待てないらしい。
おれは片方の手で香穂ちゃんの背中を抱えて固定すると、もう片方の手で彼女のすらりとした脚を撫でた。
すべすべとした丸いひざは、どれだけ触ってても飽きることがない。
香穂ちゃんと付き合う前のおれ。
そう、まだ、『恋』っていうこと自体に憧れていたころ。
彼女ができたら、遊園地に行って、ショッピングに行って。美味しいモノ食べて、いっぱい遊んで。
なんて外で遊ぶことばっかり想像していたけど。
香穂ちゃんの身体を知ってから。……別れ際、キスをすることが当たり前になってから。
ふと気づくとおれは、この子と2人きりになれる場所を探している。
抱きしめて。
これ以上近づくことができない距離で、お互いを解放する。
最近のおれは、彼女を抱くことで少しずつ、『恋』の色が変化してきていることを感じてる。
──── 好き、じゃ、物足りなくて。大好き、でも、言い足りなくて。
「おれね、ずっと、こんな言葉を使うのは、もっと大人になってから、って思ってた。
使い方、っていうのかな。どんなときに使うのかも知らなかったし」
抱きしめたまま動かないおれを不思議に思ったのか、香穂ちゃんはおれの目を覗き込む。
そこにはおれを信じ切っている優しい表情があった。
「……おれ、きみが可愛くって仕方がないんだ。こういうの、『愛しい』って言うんだね」