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*...*...* Scherzando (たわむれ) *...*...*
 もともとさ、おれ、香穂ちゃんのこと、ほかの誰よりも理解してるって自信があった。 可愛くて、明るくて。それでいてひたむきで一生懸命で。おれのこと、いつも励ましてくれて。 大学1年の冬。香穂ちゃんと過ごしてかれこれ9ヶ月が過ぎようとしているのに、 おれが真っ先に思い出す彼女は、つい最近の彼女じゃない。 受験生だったおれを、何度も励ましてくれた確信に満ちた笑顔だ。

『火原先輩なら、絶対大丈夫です』
『……そうかなあ。今日もさ、おれ、柚木に整数次倍音について教えてもらったんだけど、チンプンカンプンだったよ』
『えっと……。でも、教えてもらって今はわかるんですよね?』
「まあね……。柚木って教え方がいいから。先生の説明よりよくわかるんだよね』
『だったら、大丈夫です』
『でも、底がナイ、っていうのかな。まだまだわからないところ、たくさんありすぎて。アタマが真っ白になる』

 先輩らしく。カレシらしく。
 彼女ができたらあんなことしてあげたい、こんなことも。ってアタマでっかちになっていたおれは、現実では香穂ちゃんに甘えっぱなしのただの子どもだった。
 だけど、こんなとき香穂ちゃんは決まっておれの手をぎゅっと握って、まるで大切なモノを扱うかのように、優しく撫でた。

『上手く、いきますように。合格しますように』
『香穂ちゃん……』
『私……』

 冬空のすがすがしいところ、透明なところを全部吸い取ったかのような透き通った目を三日月にして香穂ちゃんは笑ってた。

『私、自分がもう一度高校生をやり直せるなら、火原先輩みたいな先生と出会いたいって思う。 火原先輩みたいな人は先生になるの。……絶対、なるの』


 そんな『しっかり者の彼女』っていうのが自分の中にしっかり根付いているからかな。 香穂ちゃんとソウイウコトになったとき、おれは香穂ちゃんが身体を見られるのをすごく恥ずかしがるのがわからなかった。 いや、数分前まで香穂ちゃんとつながっていた、今になってもわからない。
こういうことをするようになって、もう半年くらい経っているのに、香穂ちゃんは灯りのついているところでは絶対服を脱がない。おれに触らせない。 灯りを消して。カーテンも閉めて。手探りじゃなきゃ、香穂ちゃんの存在が掴めなくなってから、ようやくおれはお腹の空いた子犬みたいに香穂ちゃんにむしゃぶりつくんだ。
 冬の夕暮れは早い。そう教えてくれたのは香穂ちゃんだった。正月過ぎの太陽は夕方をあっという間に夜に変えていく。 おれはベッド脇のライトをつける。目を閉じて、荒い息をしている香穂ちゃんは、頬をピンク色に赤らめて。首筋を流れる汗がキラキラしてて、どんなときよりもキレイだって思う。

「ね……。お願いだから一度、香穂ちゃんの全部、見せてよ」
「……全部?」
「だってさ。こんなにスベスベで柔らかくて温かいんだよ? 胸のてっぺんとか、おれを受け入れてくれるところとか、どれくらいキレイなんだろう、って思うよ」
「な……っ。そんなの、ダメです!」
「最近、おれ、香穂ちゃんの首元見てると、ドキドキする」
「え……?」
「あ、手首もかな。……膝もだ。──── 服に隠れている先はどうなってるんだろうって」

 布団の下、おれはそろそろと手を伸ばす。ホント、女の子って細いし、柔らかい。華奢な首の線をたどっていくと、手のひらに余るほどふくよかな胸があって。その下は、びっくりするほど細い腰があって。これ以上細くなったらどうしよう、って迷う指はふたたび豊かなヒップに辿り着く。 そこでおれは安心してしまう。この子は、消えない。無くならない。ちゃんとおれのそばにいてくれるって。 昨日に続く今日。今日に続く明日。来年、香穂ちゃんが大学生になっても。おれが社会人になっても。ずっとこの子はそばにいてくれる。
 ──── だから、ちょっとワガママ言ってもいいよね、って。
 おれはたわむれのような気安さで、自分の行為を隠しながら彼女の肩を覆っている布団をずらしていく。甘い、香穂ちゃんの中心から滲んでくる香りが鼻を突く。刷り込み、なのかな。一度果てたハズのおれの一部は、別の生き物のようにムクムクとアタマをもたげた。

「香穂ちゃん、お願い、見せて?」
「イヤ……。ダメ」
「どうして?」
「……恥ずかしいの。だから……」
「……じゃあさ、恥ずかしいのが、なくなっちゃえば、いい?」
「え……?」
「ちから、抜いてて……」

 おれは彼女のあごを持ち上げると、柔らかな唇を自分の舌で広げていく。真っ白な歯列を舌先でなぞり、かすかな隙間に忍び込む。何度もココをイジめててわかった。 ──── 香穂ちゃんはココでも十分感じられる。
 柔らかな舌を引っ張る。絡める。どうしてだろ。香穂ちゃんだから? それとも女の子だから? 香穂ちゃんはすべての体液が甘い。口からの蜜も。おれを受け入れてくれる場所のも。

「あ……っ」
「……香穂ちゃんは、恥ずかしくない。きっと見たら、おれ、香穂ちゃんのことがもっと好きになる」
「そんなこと……」
「もう、隠さないで」

 くたんと身体中の力が抜けた香穂ちゃんの腕を、頭の上にひとまとめにする。かすかな抵抗はおれの欲をどんどん増幅させていく。 ああ、こういうとき、オトナの男の人ってどんな風に女の子を可愛がるんだろう。ともすれば痛いくらいの刺激を与えてしまう自分に自己嫌悪だ。 優しくしなきゃダメだ。そうわかっているクセに、強く触れなきゃ自分の想いは伝えられない、とも思ってしまう。
 そんなときに浮かんでくるのは、おれの手をそっと握ってくれた高2のときの香穂ちゃんだ。 優しくて、温かくて。試験前も試験中も、どれだけおれは励まされたかわからない。そっとそっと触れる。香穂ちゃんの反応を見ながら、触れる。高3の受験のとき、香穂ちゃんが励ましてくれたような優しさで触れるんだ。

「……わぁ」
「や、やだ」
「キレイだ。すごくキレイ」

 ズレ落ちた布団の奥からひょっこりと彼女の胸のてっぺんが飛び出す。ぽってりとした紅い苺のような先っぽに、真っ白な肌のコントラストがキレイすぎて、おれは可愛がるのも忘れてボンヤリとその光景に見入る。

「……香穂ちゃん、こんなにキレイだったんだ……」
「……そんなに、じっと見ないで? お願い」
「知ってた? 香穂ちゃん、ここからも甘い匂いがするの」
「し、知らないです」
「おれがこうやって可愛がるとね……」

 豊かに実った果実を味わうように、おれは香穂ちゃんの膨らみを持ち上げ、ゆっくりと頂きを口に含む。
 ──── 服の中の肌の色。おれしか知らない彼女の秘密。それを一つ共知ったことに幸せに感じながら。
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