*...*...* Pellow Talk 〜おまえの場合〜 *...*...*
 ……オンナ、って、すごい、と思う。


 キスを交わすのでさえも、恥ずかしそうにおどおどしていたおまえが。
 今では、時折せがむようになったこと。

 軽い快感では足りなくて。
『……もっと、ね……?』
 と恥ずかしそうに、おねだりするようになったこと。



 男の俺は、これまでも、今も。
 おまえを抱いている、という喜びは日々募るけど。
 そういったこと、に関してはずっと変わらない、まま、で。



 今では自分のことより。
 おまえが俺の腕の中で変化していくのを見てる方が楽しかったりする。





 でも、ヘンだよな。
 おまえが辛そうに肩で息をしていても。
 ほろほろと涙を流していても。
 この時、に関しては、全然悪いとは思わない。



 俺が、変えた。
 俺だけ、しか知らない。
 俺、の。
 俺、が。



 おまえの変化全てに、俺が起因してると思うから。




 あの時の。



 眉根をきゅっと寄せて、泣いているような、困っているような。
 俺の言葉や動きに、過敏なまでに反応して、羞じらいながらも昇りつめていくおまえの。
 ―― なんて美しいことか。



 もう、これ以上増えることはない、と思っていた自分の中の愛しいと思う気持ちは、日々塗り替えられて。
 俺の中にはどうしようもない愛しさだけが、こみ上げて来る。




 ふたりの間にどんな言葉も必要ないような、ぬかるんだ空気の中。
 おまえはすっぽりと腕の中に納まって、俺の胸のあたりを意味もなくなぞっている。



「オンナってすごいな」
「……なにが?」


 ぼんやりと掠(かす)れた、たった今、覚醒したような声が返ってくる。


「初めは痛がって、泣いてばかりいたのに」
「……珪くん!?」
「今じゃ、簡単に、受け入れて、受け止めて」
「!!」
「……俺が欲しい、って泣くんだ」
「や、も……。言わないで……?」



 おまえは必死で俺の口を押さえる。
 でも、それさえも。
 指の関節1つ1つにキスして、快感に変えていく。



「も、やだ……。もう、止(や)めて?」



 いつもより、やや強めの力で手をふりほどくおまえ。
 そして。



「コワいよ。もう……」

 おまえの瞳がふるっと膨らんだかと思ったら、それは、さらさらと頬を伝って。
 やがて俺は自分の首に暖かいものが落ちるのを感じた。



 怖い?
 ―― また、愛しすぎた、のか?




 おまえを抱くと。
 いつも、どれだけ抱いても、きりがなくて。
 おまえが、コトリ、と音を立てて眠り込むまで、求めてしまう俺がいるから。




 大事にしたい、そう思ってる。
 かけがえのないヤツだ、とも。


 でも、おまえを抱いているときは、そういった理論とか倫理とかどうでもよくて。
 何度も貪欲に求めてしまう俺がいるから。




「言ってみろ」


 ん……、とおまえはためらいがちに言葉を選びだした

 さらり、と前髪を何度も軽く引っ張っているおまえのしぐさを見て、俺は続きを待った。
 おまえの、戸惑ってるときの、クセ。


 俺は、おまえがどんなことを言っても、嬉しいばっかりなんだけどな。


 おまえの全てが知りたい。

 それが仮に俺とは相容れない考え方であっても。
 今までのように、話し合って理解し合えれば。
 それは次へのステップになる……。そう、思ってるから。



「あのね……」
「ん?」
「身体、がね。どんどん鋭くなるの。……自分でも、この変化についていけないの」
「……ああ」
「どんどん珪くんを感じて。深く強く感じて。底が、ないの。あるかもしれないけど、まだ見えないの」
「……それがどうして怖いんだ?」



 最初、から、全部。
 俺が、おまえ、に、教えたこと。
 俺は言葉で伝えられない思いを、この行為を通して伝えられたら、と思っていたし。
 おまえが俺に感じている様子を見るのは、
 正直、おまえに思いを伝えて受け入れてくれたあの卒業式の時と同じくらい嬉しいんだけどな。



「やっぱり、コワい、よ? ……自分で自分の身体をコントロールできないなんて……っ」



 そう言って、おまえは俺の胸をトンっと切なそうに叩いた。


 おまえ。
 ……全然わかってない。
 そんな行為は、俺を喜ばすだけだってこと。
 おまえが俺のイロに少しでも染まってくれたんだ、って、
 自分の愛し方を再確認するだけの、行為だってこと。



 俺はおまえを抱く手に力をこめて、言った。




「……底、なんて、見えなくていい……」
「え……?」
「一緒に、行こう……。どこまでもついて行ってやる」
「珪くん!」
「ずっと、一緒だ」
「…………」




 とたんにピン、と張っていたおまえの中の弦(げん)のようなものが、弾(はじ)けて。
 おまえの身体が柔らかくなった。



「ん?」
「……ありが、とう……」



 見るとおまえは目尻に涙を残しながら微笑んで。
 ―― もう、眠ってる。



 俺は涙を拭(ぬぐ)い取ると、おまえの肩に毛布をかけ直して。
 光っている自分の指先にキスをした。




 おまえと。
 おまえの涙が教えてくれた。


 ―― こんなに人を愛せることを。



 おまえのために俺は強くなる。



 こうして。
 腕の中に抱きかかえている。
 そういった身体の問題だけではなくて。




 おまえが迷ったとき、困ったとき。
 いつも頼りにしてもらえるように。






 心の、助け、になるように。
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