*...*...* Sweet Kiss *...*...*
 ありがとう。
 ――ずっと、そばにいてくれて、ありがとう。



 3年間。
 ずっと、珪くんだけを、見てきたよ。
 いつか、追いつけるかな?
 あなたにふさわしい、わたしになれるかな?


 そればかり思って。



 ちょっと不純だけど、

 運動、頑張ったのも。
 珪くんに褒めてもらいたかったから。

 受験勉強、頑張ったのも。
 同じ大学に行って。
 珪くんの未来に、ほんの少しでも存在したかったから。



『頑張ったな』

 珪くんが言う、なにげない一言が嬉しかった。
 ――俺のそばに、いてもいいよって。
 そう言ってくれてるみたいで。


 珪くんのそばにいることが許される、そんな目に見える資格があるのなら、
 わたし、どんなことをしても手に入れたいって。
 そう思うようになったのは。
 ……いつのころから、だったのかな……?






「……俺たちの永遠を、ここから始めよう」
「珪くん……」




 まぶしいほどの光がわたしたちを包み込んで。
 珪くんの息が頬に触れる。




 いつも『ニブい』って言われてるわたしだけど、
 不思議だ。
 こんなとき、っていうのは、誰に教えてもらわなくてもわかるもの、なんだね。





「…………」





 なんて。
 これから起きること、を予想してたんだけど。



 あれ?
 えっと……。
 も、もしかして、それは、わたしの思い違い、なの、かな……?


 わたしが珪くんの顔をまじまじと見つめていると、

「……おまえ、目、閉じろよ」

 あきれたような声が頭上から響く。





 いつも、こう、なんだよね……。

 余裕たっぷりの珪くんと、からかわれてばかりのわたし。
 あまりの余裕っぷりがくやしくて、わたしはぷうっと膨れながら言い返す。


「わたし、初めてだから、わかんないもん」
「……そうか」


 苦笑しながら、珪くんはそっとわたしの瞼に触れて。
 珪くんのことを見つめることしか出来なかった瞳に影を作る。



 今まで。

 わたしが珪くんの手に触れたことも、
 珪くんが慈しむようにわたしの頭をなぜたことも、
 数え切れないほどあったのに。




 ――キスって、こんなにドキドキするものなの?



「…………」
「……ははっ。スゴイ表情(かお)」


 ……また、笑ってる。

 確かに、き、緊張して、眉間にシワなんか寄りまくりで、
 顔全体が硬直してはいるんだ、けど!

 どうしてわたしのこと、いつもそんなにおもちゃにするのかなあ?
 閉じていた目を見開いて、珪くんが笑ってるのを見てたら。
 恥ずかしさが一気に押し寄せて来た。



「も、もう〜! もう、し、しないんだから〜〜〜!」

 珪くんはそんなわたしの様子を、にこにこ嬉しそうに見てて。


 ――この瞳。
 体育館裏の子猫たちがケンカするのを見ている目と同じ、なんだよね。
 そしていつもの茶化すような口調で、わたしをからかうんだ。



「しない、って……なにを?」
「な、な、なにを、って、なにを、って……っ!」



 わたしの頬や、耳までもが、これ以上ないくらい真っ赤になって。
 涙やら、汗やら、わからない感情までもがぐるぐる体内を駆け巡る。
 ――これ以上、わたしをおかしくして、珪くんはどうしたいの?




「……冗談。……ほら」


 胸の前で固く握りしめたわたしの両手を、珪くんはそっとあやすように広げて。
 ふと真面目な表情(かお)になる。


 そして。



 わたしの額へすべるように手を落として、瞼を再び閉じさせた。







「…………!」







 冷たい唇がわたしの頬を伝って、目的の場所に辿り着く。



 何度も何度も。
 ラインを確かめるようになぞって。




 2人のソレ、が、同じ温度になったとき。
 珪くんは最後にかりっと端を甘噛みして、
 ようやくわたしを解放した。




 ヘンなの……。
 こうすること、で、2人の間のナニかが、とてつもなく変化すると思っていたのに。

 瞼を、そっと開けて。
 見上げた先にあるのは、いつもと変らない笑顔。



「珪くん……」
「……これからもよろしくな」
「ううんっ! わたしこそ、なの!!」



 珪くん、大好き。



 ……ううん。
 好き、なんて言葉じゃ、もう、足りない。

 珪くんを形造る、そのすべてを見つめていたい。



 ただ、愛しくて。
 この愛しさが、募って、溢れて、愛に変わるんだ、って。
 これも、珪くんが教えてくれたんだよ?



 珪くん、愛してる。



 愛してる、なんて言葉。
 入学式の日、この教会に来た時には知らなかった。
 本やお友達の話、映画、さまざまなメディアで伝えられる、

『恋愛話』

 で、愛することを知った気になってた。



 でも、現実は、程遠くて。


 珪くんに関(かん)すること、関(かかわ)ること。
 すべてが。




 こんなにも苦くて、……甘い。



 いつもいつもあなたについて考えている。
 ――あなたがいれば、なにも、いらない。





 一緒に、いたい、よ?

 一緒に、いて。
 一緒に制服を脱いで。
 一緒の空気、一緒の風を感じて。


 ずうっと一緒に成長していきたいよ。




 それがわたしの、願い。





 珪くん?




 ――あなたの景色に映るわたしが、
 どうか、このまま、色褪せませんように。







 からかわれてばかりじゃ、くやしすぎるから、
 隙をついて、珪くんの頬にキスしてみる。


「……こ、こらっ!」


 見る見るうちに染まる頬。
 やっと見つけた、キミの弱点。




 逃げ出したわたしを、たやすくつかまえる大きな、手。




 ――このまま、ずっと、離さないでね?
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