*...*...* Proud of you *...*...*
大学の後期試験を目前にして。借りたい参考書があるから、とは俺の家にやってきた。
「どれでも好きなやつ、持っていけよ。俺はもう読んだから」
「ん、ありがとう。見せてもらうね〜」
いいな。1度見たら忘れない超能力がわたしも欲しいよう!なんて、子どものようの頬を膨らませてるの頬をつつくと、俺はコーヒーを淹れるために階下へと降りた。
俺たちが通っている大学は、冬休みは高校と同じように短いものの、この1月にある後期試験をクリアしてしまえば、約2ヵ月間の春休みが待っている。
は、その休みの過ごし方をあれこれと計画しては、楽しそうに俺に話す。そして俺は、そんなあいつの顔を見ているのが好きだったりするんだ。
可愛い、よな。
付き合い出して、2年も経つのに。
おまえ、全然変わらないんだ。
『ここなんてどうかな?一緒に行こう?』
なんてパンフを指さしながら、ちょっとためらいがちに目を伏せるところとか。
あ、でもでも珪くん、他に行きたいところあったら、教えて? と気遣うところ。
俺、おまえの誘いを断わったことなんてないのに、俺がその提案に頷くと、
『やった〜』
って跳び上がるくらいのパワーで喜んでくれること。
本当に、飽きないんだ。
あいつが喜ぶことなら、どんなことでもやってやりたくなって、そうしてるとき、自分の中の幼い自分もようやく安心しているような、そんな気がする。
「?」
「わっ、あの、えっとこれ……」
「……見つけたのか」
コーヒーを淹れて俺の部屋に戻ると、あいつは俺の声に一瞬肩を震わせたあと、バツの悪そうな顔でこちらを振り返った。
手には、一冊の本と、小さなポラロイド写真。
その本とは、が借りたいと言っていた本とは全然違う、俺がいつも見ているシルバーのデザイン集だった。
俺がヒマさえあれば開いて見てるものだからも興味を持って手に取ったんだろう。
そこに栞のように挟んでいるそれ。
そこにはちょっとだけ色あせた、制服姿のが少し遠くを見て微笑んでいる。
「えっと、これって、制服着てるから、いつだろう……」
はぽすんとベットの端に座ると眉根を寄せて考え込んでる。
「修学旅行」
俺は短く答えると、ほらっと、にマグカップを手渡した。
「えええ? わたし、こんな写真、珪くんにあげたっけ、初めて見る写真のような……」
「藤井が、買う? って聞くから。買わないなら、他のヤツに売りつけるって。……だから買い占めた」
「わわっ。奈津実ちゃんたら、そんなことっ。ん……、なんだか今見ると恥ずかしいね」
は写真の中の自分の顔をさらりと撫ぜながら複雑そうな顔をしている。
「そうか?」
「頬なんてパンパンだし」
「確かに」
「なんかあどけない顔してる……」
「……今も、な」
「んもう、否定してよう!」
俺に伸びてきた手をたやすくつかまえながら、俺は笑った。
おまえ、……力で俺に勝てるわけないのに。
は少しだけもがいたものの、いつもみたいにすっぽりと俺の腕に入ってきてつぶやいた。
「こんな3年前の写真、持ってるなんて///」
「……いいだろ? これ」
10年の時を経て、ようやく知り合った頃。
おまえの気持ちも、俺の気持ちも、全く手づかみだった頃。
この写真を見るたび、俺は、おまえと一緒に過ごした季節を思い出すんだ。
出かけることもキライで人と話すことも苦手な俺を、いつも絶えず新しい世界へ引っ張っていってくれたおまえ。
を通して知った、色のついた世界。
それはこの写真が色あせるとともに、鮮やかさを増していったの、おまえ、知らないだろ。
は写真の中の自分に納得が行かないようで、まだ口を尖らしてる。
「ね、珪くん……。恥ずかしいから、これ、返して?」
「返して、って……これ、俺のだろ?」
「ううんっ。わたしが映ってるもん、わたしのだよっ」
そう言って。
俺からすると勝手な論理を展開しながら、照れくさそうに写真を手にして必死に背中に隠してる。
俺は片手をの腰を引き寄せると、空いている方の手でその写真をつかんだ。
「ダメ。……返さない」
どうしてそんなに恥ずかしがるんだろう?
15歳のときから、……いや、5歳のころのおまえだって、俺、今すぐだって思い出せるのに。
息も触れそうなほど近くにの頬を感じていると、は真っ赤になりながら言った。
「こ、こんな、子どもっぽいの、やだよ……」
「一緒に過ごした、って証だろ?」
昔のおまえを知っているという事実。
幼いばかりのおまえも。
少女からオンナへの階段を駈け抜けようとしているおまえも。
毎日見てても見飽きることがない、その豊かな表情も。
みんな、みんな。
―― すべてが俺の、宝物。