24・7(トゥエンティフォー・セブン)
1日のうちの24時間。1週間のうちの7日間。
これは日本語で言えば、『四六時中』っていうこと。
(4×6は24だから、24時間。なんかクイズみたいですね。)
ずっとずっと一緒にいたい。
恋が始まったばかりの新しい恋人たちが使う言葉。
ふたり、で、いたい。
そんな思いを込めて口に乗せる言葉なのです。
*...*...* The future close at hand *...*...*
昼休み。「奈津実ちゃん、今度、こっちの雑誌、見せて?」
「オッケー。」
冷たい雨が続くようなこんな日には、アタシたちは外へ出ることもできず、早目にお弁当を食べ終わると、こうして雑誌の回し読みをしていたり、する。
24・7(トゥエンティフォー・セブン)
付き合いはじめたラブラブなカップルが使う言葉です。
あなたも今度のクリスマス、大切な彼と素敵な『24・7』を経験してみてはいかが?
なんて今月のファッション雑誌の小さなコラムにクリスマスカラーの文字が躍ってる。
ぱっと目には読み飛ばしてしまいそうな小さな記事。
けど女の子って、こういう小さな、しかもどうでもいいことを身体いっぱいに溜め込んで、少しずつオトナになっていく気がするんだ。
24時間、ねえ?
もしアタシ、藤井奈津実がトゥエンティフォー・セブン、姫条まどかと一緒にいたらどうなっちゃうんだろう?
アタシ、ずっとボケっぱなしでいなくちゃいけないのかな?
いや。いつもアタシが突っ込まないと、大きな背中を思い切り小さく丸めて、
『なな? 今のギャグ、どやった? おもろかったやろ? な?』
と太陽の匂いがするような飛び切りの表情で覗き込んでくるから。
── やっぱりアタシは、その笑顔が見たくて。
口ではハイハイ、と軽く流しながらも、彼の次の行動を心待ちにしてたり、してる、から。
ボケとツッコミ。
あいつと一緒にいたらアタシ、さながら大阪のお笑い芸人のように、両方の役をさくっとこなさなきゃいけなくなりそうだ。
それを7セットクリアしたときには、アタシのアゴもあいつのノドもどうにかなっちゃってる気がするけど……。
やっぱり、嬉しいのかな? 一緒にいられる、ってことになったら。
……でもねえ。
嬉しいような不安のような。
ごちゃまぜの気持ちはため息となって身体の外に出た。
目の前にいるアタシの親友は、熱心にネイルアートの特集を読みふけっている。
「右手の小指にアート入れるの、難しいよね? 奈津実ちゃんもそう?」
なんて言って、自分の指の甘皮をじっと見つめると大切なモノのようにさすっている。
なんか、可愛いんだよね、って。
ふとした瞬間の何気ないしぐさが、女の子女の子してて。
同級生なのに。
そこそこ努力もしてるから、勉強もアタシよりデキるのに。
……どーも見てて、心もとないんだ、この子は。
その頼りない感じが、入学式の日、アタシを引き寄せたのかもしれないなあ。
そして、と同じ高校編入組みだった、あいつとも。
(何かに惹かれて、一緒に3度目の秋まできたのかな?)
『ずっと一緒』の『24・7(トゥエンティフォー・セブン)』
ほーんと、あいつとそんなに長い間一緒にいたら、どうなるんだろう?
あいつ、寝てるとき以外はずっと話し続けてそうな気がする。
朝、目覚めてもご機嫌で。寝るが寝るまでご機嫌で。
いっぱい食べて、いっぱいしゃべって。
それが7日?
……マズい、よね?
そんなに一緒にいたら、もっとあいつのいいところばっかり目に映っちゃう。
(コレ イジョウ スキ ニ ナッチャウノ ?)
アタシは髪の毛をひとつにまとめているバレッタの付け根を力任せに引っかいた。
「うーー。やっぱ、パス!」
「……ん? どうしたの? 奈津実ちゃん」
アタシの独り言に気づいたのか、が雑誌から顔を上げ、首をかしげている。
「ねえ、。……アンタ、葉月と24時間7日間、一緒にいられる、って言われたらどうする?」
「……へ?」
「あいつがアンタをどう口説くのかめちゃ興味があるところだけどさっ。……どーする?」
アタシとの間には机が一つ。
アタシは机に乗りかかるようにしてを見つめた。
「わ、わたしはパス! 絶対絶対ヤダ!!」
は『口説く』という言葉に反応したみたいだ。
目の前の白い頬が一気に染まってくのがわかる。
それにしても、……ちょっと意外な返事かも。
文化祭も無事すんだ今。
手芸部だったは、今年、同性のアタシから見ても本当に愛らしいウェディングドレスに身を包んで、ホールいっぱいの拍手を受けていた。
それを見ていた学園界の王子も、自分のこと以上に嬉しそうな顔してのことを見てて。
ちょうどふたりの間に立ってたアタシはそれを、とっても誇らしく思っていた。
ふたりがふたりの仲をどう否定したって、ふたりの間を流れてくる空気はふたりの仲を確実にしていく。
親友がもし、これから先、ハッピーエンディングを迎えることになったら、そりゃこの奈津実サマも嬉しいに決まってる。
だから。
そこんところ、の一番の親友を自認するアタシは、一番に把握しておきたいんだよね。
「珪くん、と……? 24時間?……ムリだよ〜」
アタシが思いついた簡単な問いかけを、は真剣に受け止めて焦りまくってる。
ふうん……。面白いんだ。
「王子、『……一緒にいたいんだ、おまえと』とかなんとか言って口説くのかな? あー、なんかヒワイ」
「奈津実ちゃん!!」
対面越しに座っているアタシの口を押さえようと、は必死に手を伸ばす。
へへーんだ。日頃の鍛え方が違うアタシにかないっこないのに。
「どうしてパスなの? いいじゃん、あいつ寝てばっかりいそうだし?」
姫条の弾丸トークを聞かなくていい分、楽な気がする。
ああ、でも、アタシはと違って、王子の沈黙からは何も聞き取れないから、やっぱりそれはそれで気詰まりかも。
「そ、それはそうかもしれないけど……。ヤなの。わたしは」
なおもきっぱりと言い張るを見て、この奈津実サマの予感は違ってるのかしら? とちょっと焦る。
いや、3年間の付き合いだし?(あ、端数はもれなく切り上げね?) アタシの見る目に間違いはない、ハズ!
「……コホン。、その理由を述べよ」
「あはは、奈津実ちゃん、どんどん氷室先生に似てくるんだ」
「……話をそらさないように」
「えと……。はい」
「ほれ、言ってみ?」
アタシはじりじりとを追い詰めていく。
困ったように眉を寄せるを見て、もう少しだ、と心の中で握りこぶしを作る。
でも。
のふっくらとした唇からは、思いかけない言葉が飛び出してきた。
「あ、あの……。は、恥ずかしいでしょ?」
「……は?」
何を今更。
だいたい、アンタたち、高1のときからしょっちゅうふたりきりで会ってたじゃん。
今日はたまたま雨だからアンタたちは体育館裏に行かない。
けどアタシ、知ってるんだからね、というか、学園中の人なら一度は目にしたことがあるんじゃないかな?
昼休み、一緒にお弁当デートしてるの。
「ううん。違うの。そんなに長い時間一緒にいたら……」
「……たら?」
コクン、と白いノドが動く。
「ん。緊張で、どうにかなっちゃうよ」
今でさえ、毎日緊張するんだから。お話するのだって、一緒にいるのだって!
ヘンだよね? 姫条くんや鈴鹿くんとなら、なんともないのにね、とはまぶしそうに笑った。
「はいはい。……緊張の大きさ分だけ、それだけ葉月のことが『好き』ってことね」
「う……。そ、そだ。そういう奈津実ちゃんはどうなのよう! ね? 姫条くんと、24時間7日間」
どーだ、と言わんばかりの満面の笑みに切り返される。
突然のの反撃に今度はこっちがたじろぐ番。
「……『やっぱ、パス!』、でしょう?」
えへへ、わたしと一緒だね? と、さっきのアタシの独り言を聞いてたのか、は自信たっぷりに微笑んでくる。
アタシもちょっとだけ怒ったフリしてのことをにらんで。
次の瞬間、ふたり、弾けるように笑った。
「「 やっぱり、そうだよね 〜〜」」
アタシたちはこのはば学の3年間で、
男の子を好きになるっていう気持ちに気づいて。
この胸にある思いを信じて、戻らない時間の中で立ちすくんだり、励ましあったり。
ね、。
これからアンタとアタシ。
どんな風に扉が開いていくんだろう?
少し先にある、まだ見えない世界。
この手に掴めそうなのに、掴もうとするとするりと逃げ出していく世界。
その世界が、ハッピーでもアンハッピーでも。
今、一緒に笑い合ってた、と。一緒にこの場所にいたって、こと。
覚えていよう。
ずっとずっと大事にしようね?