*...*...* 眠っている君の横で *...*...*
横から漏れてくる穏やかな寝息で、ふと目が醒める。珪くん……。
少し光を帯びた髪に、すっきりとした額。
翠色の瞳は閉じられてて。
髪の隙間からは形の良い耳が見える。
「珪くん……」
わたしは、珪くんが眠っているのを確かめてから、
そっと、頬から顎のラインに触れてみた。
かすかに伝わる吐息。あ・・・、起きちゃうかな?
ねえ、珪くん、珪くんは知らないでしょう?
珪くんを好きになったことで、わたしがどんなに強くなったか。
珪くんを好きになってから、いろんなことがあったよね。
それらは決して、楽しいことばかりじゃなかったけど、
今のわたしには全て良かったことだって思える。
だって、つらかったこと、一つ一つがわたしを、わたしたちを 見つめ直すことになって。
そのたびに、珪くんはわたしにとって、かけがえのない人だって、思い知らされて。
いつも不安でいるわたしに、珪くんは態度で、おまえが必要だ、と言ってくれた。
愛し方を知らなかったわたしを、愛される喜びで包んで教えてくれた。
いろんなこと乗り越えて、今のわたしたちがあるんだね。
少し歩幅の違う足で、一歩ずつ歩いていこうね。
これから二人で歩む道は、決して平坦ではないかもしれないけど。
昨日、照れながら二人で書いたこの紙、
この時の想いを、ずっと大切にしようね。
*...*...*
「……どうした? 眠れないのか?」突然声がして、あわてて手を引っ込めたけど、
あっさりつかまってしまった。
「なに、考えてた……?」
かすれた声、わたしの大好きな声で、聞いてくる。
「え、と、え……? あ、もしかして起きてた……?」
「ああ。ニヤニヤしたり、切なそうな顔したりしてたな、おまえ」
そう言うとわたしを引き寄せ、首筋にキスを落とす。
「なあ……、何考えてたんだ……。言えよ」
「……えへへ、ナイショ!」
少しムッとした顔で、にらんでくる。……こ、コワくないもん。
エィっとばかりにわたしもにらみ返す。
「…………」
「…………」
この勝負に負けるのは、いつも、珪くん。
「……バカ、そんな顔しても、可愛いだけだ、おまえ」
「やた! わたしの勝ち〜」
「おまえって、本当に飽きないヤツだな。……一生楽しめそうだ、俺」
あやすように背中をなでられ、その途端、わたしの勝利は崩れ始める。
「ん……」
「もう、俺以外のこと、考えるなよ」
噛み付くようなキス。熱を帯びてしっとりとしてくる肌。
日頃の珪くんは、無口で、それを不安に思ったこともあったけど、
わたしが伝えて欲しいものは、もう、言葉、じゃないから。
言葉、なんていらない。
こうして慈しむように抱かれて、
珪くんだけを感じていられれば、それでいいんだ、わたしは。
珪くん……。
……夫婦になっても、よろしくね。