*...*...* 大好きな色 *...*...*
 ね、珪くん……?
 この絵本、知ってる?


『あおくんときいろちゃん』



 二人はとっても仲良しでね。
 昔の珪くんとわたしみたいに、毎日、とても長い時間を一緒に過ごすの。
 そうして……、毎日くっつきあって遊んでいるうちにね、お互いの素敵なところを影響しあって、
……ある日、二人ともみどりになっちゃうの。


 ところがね、そんな二人がそれぞれの家に帰ったら、大好きなお父さんとお母さんは、
 こんな色の子はうちの子じゃない、あなたはだあれ? って……。
 いくら説明をしても、お父さんもお母さんも分かってくれないの。

 悲しくなってワンワン泣いてるうちに、
 あおくんの身体はあおに、きいろちゃんの身体はきいろに戻って。



 そうしてようやくお父さんお母さんたちは、この子たちに何が起こったのか理解して。
 4人のお父さん、お母さん、あおくんときいろちゃんは、抱き合って喜びを分か ち合うの。

 ……出会えて、良かったね、って。



 6人みんなみどりになって。




 ね……、こうやって、人と人が出会って、
 いろんな影響を受けていくって、……なんだか、素敵なことだよね?


 その人に出会えたことも、奇跡、なら、
 影響を受けるほど親しくなれたことも、奇跡、だよね?



 特に……わたしは、誕生日が4月1日だからかな?
 1日、生まれるのが遅かったら、珪くんや、奈津美ちゃんや……。
 はば学で出会った大切な人たちに出会えなかったかもしれない……って。



 今の出会いに感謝してるからこそ、時々考えちゃうこと、あるんだ。




 珪くんもわたしも……、絵本の中のあおくんときいろちゃんみたいに、
 お互いにたくさんたくさん、影響しあって……。

 2人で一緒にみどりになれたらいいな……。



 穏やかな色。大好きな珪くんの瞳の色に。





 あお……。きいろ……。
 個性……って?自分らしさってなんだろう?

 珪くんはあまり好きではないモデルの仕事も、
 将来の夢につながるナニかがあるんじゃないかって頑張ってるし。

 奈津美ちゃんもカメラマンのアシスタントを、口では
「大変なんだから〜〜!」

 と言いながらもとても生き生きとやってる。



 わたしは……? わたしは、何をしたいの?


 自分の未来に、珪くんの未来に。
 ……珪くんが一緒にいてくれたら、って。ずっと、そばにいさせて、って。
 そればかり、で。


 もちろん、そうであったら嬉しいし、……それが今のわたしの一番の願い事。

 でも、……わたしにしかできないこと、っていうの。
 見つけたいな、これから。






 ふと、膝の上の柔らかい髪が揺れた。






「……ん……」
「珪くん、おはよ。……起きた?」
「……ああ。……俺、よく寝てたな……」
「ん……。気持ちいいもんね……ここ」




 森林公園の片隅。午後3時を過ぎると暑さも一段落着いて、木陰の下は心地よい風が吹いている。





「珪くん?」
「……ん?」
「珪くん?」
「……なんだ?」


「ん……。返事が返ってくるのって、……嬉しい」



 目を合わせるのが恥ずかしくて、わたしは少し遠くの芝生を見る。
 そこでは、自分の身体よりも大きなピンクのビニールのボールを抱えた女の子が嬉しそうに走り回っていた。
 ……あ、ゆっくり歩かないと転んじゃうよ?





「……バカ……」



 珪くんの困ったような声が聞こえる。



「ん……。でも、いいんだ……」
「……なにが?」



「わたし、珪くんについて、は、バカでいいの。……一緒にいられるだけで」



 ……嬉しいから。


 最後の言葉は、風の中に消えてしまったけど。




「……ん?」
「そろそろ行くか?」
「そうだね」



 タータンチェックのブランケットをたたみ、本や飲み物をカバンの中に片付けて。



 ふと見上げるとそこには珪くんの手。



「ほら……」
「ん」



 そっと手をのっけると、珪くんが思いっきり引っ張るから。



「わっ!……」
……」
「な、なに……?」







「また、今日……おまえのことが好きになった」





 耳元で、わたしの大好きな声、でささやくから。






 わたしは、恥ずかしくて……嬉しくて。




 お返しに同じことをするんだ。







「……珪くん、大好き」
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