*...*...* 瞳の影 *...*...*
珪くんは、本当に綺麗だ。ん……。男の子に綺麗だ、ってうのもおかしいかなって思うけど。
こうやって毎日のように会って、話して、たくさんの時間を共有しているのに。
珪くんの表情1つ1つにハッとして、戸惑ってるわたしがいる。
わたしがじっと呆けたように珪くんの顔を見つめていると、少し首を傾げて、
「なんか、俺の顔についてるか?」
って軽く頬をさするから、わたしは思わず吹き出してしまう。
「珪くんが、可愛いから、だよ?」
こうやって、ね。こんな風にね、自分の思ってること、100%伝えちゃうとね、 恋人同士の緊張感、っていうのかな、そんなものがなくなっちゃうって、尽がエラそうに言うの。
「ねーちゃん、恋愛は戦いなんだぜ!
押したら引く、引いたら押す! その駆け引きを上手くやるのが、面白いんだよ。
追いかけたり、追いかけられたり、するのがさ!
ねーちゃんと葉月のような関係って、他にちょっと見ないよな」
なんて、からかい半分、呆れ半分で。
でもね、伝えたいこと伝えるって、いいと思う。
―― それで、珪くんが喜んでくれるなら。
ミドリの。
たくさんの口にはできない想いをたたえたような、瞳。
ね、どの瞳で見る世界はどんな?
わたしがこうして見てる世界と、一緒? 違う?
「?」
わたしを見つめるイロが、少し色濃く影を落とす。
あ、……珪くんの瞳、以前よりも柔らかくなった、ね。
「ね? どうして?」
わたしが理由を尋ねると、珪くんは、一度まぶしそうに空を見上げてから、 ゆっくりと視線をわたしに戻して。
ひとことずつ、大切そうに、言った。
「願えば、叶う、って、……わかったから」
「あの、えと……。珪くんの願ってたものって、……なあに?」
願ってて、そして今、は、叶ってるんだよね……?
なんだろう? 本当にわかんないよ。
わたしの考え込んでる様子を見て、今度は珪くんが吹き出す。
「いい……。わからなくても」
「えええ? き、気になるよう!!」
「……おまえらしくて、いい」
これは、……誉めてくれてる、のかな?
「えへへ……。ありがとう」
『おまえらしくていい』
この言葉が胸に響いた。
ありがとう。珪くん。
ありのままのわたしを、好きになってくれて。