自分では至って冷静なつもりなのに。
 望美さんから見た僕は、どこか動物のような狂気じみた目をしていたのだろう。
 僕に引っ張られるままに膝の中に収まっている望美さんは、これ以上なく緊張で固くなっている。
 それを可愛いと思い、愛しいと思う。
 ──── もう、これ以上、自分の熱を抑えられそうにない。  
*...*...* 指先で脈打つ鼓動 (2/2) *...*...*
「大丈夫ですよ。気を楽にして。……痛くしないように努力します」
「は、はい……」
「……この一ヶ月の間、君が、いつか元の世界に帰ってもいいように、とそればかりを考えていました。
 君はたまたまこの世界に舞い降りた天女だ、と。
 天女は昔から、なよたけのかぐや姫のように元の世界に帰ると決まっていますし」
 
 否定の言葉を繋ごうとする彼女の唇を強引に奪う。
 甘美な弾力と望美さんの甘い香りは、自分の熱を加速させていく。
 僕の大きく膨らんだ一部が彼女の腰に当たって、痛いほどだ。
 
「だけど、景時の邸で君の話を聞いて、心が決まりました。
 もう、誰になんと言われても、僕は君を手放す気はありませんよ。……いいですね?」
「はい……」
 
 消え入りそうな小さな声で望美さんは返事をする。
 返事をした、というのは僕が勝手に思い込んでいるだけで、実際は微かに頷いただけかもしれない。
 
 痛みを伴わないように。そう念じながらも早急な振る舞いは抑えられそうにない。
 着物の隙間から胸元に手を這わせる。
 彼女に乞われて消した灯りの中、十六夜の月が彼女の白い肌をほのかに光らせている。
 
「弁慶さん、駄目、そこは……」
「望美さん?」
 
 柔らかな衣が はだけ、彼女の肩から胸の膨らみへ続く線が露わになる。
 桃が開花する直前のような初々しい頂きに目を奪われていると、
 望美さんはいやいやをするように首を振りながら、細い指で衣の前をかき合わせた。
 
「ごめんなさい、あの、ここは……。ほかは、弁慶さんの好きにしてくれていいの。だから、ここは……」
「ここ、とは? ……右肩のことですか?」
 
 思わぬ拒絶にあって一瞬たじろいだものの、行為を始めたばかりのときの彼女の承諾が支えになる。
 僕は彼女の髪をかき上げると、じっと彼女の言葉を待った。
 
「その……。以前、惟盛との戦いのときについた傷が」
「ええ、知ってますよ。なにしろ治療をしたのは僕ですから」
「あの、ね……。治ったことは治ったんだけど、『引き攣れ』っていうのかな。ひどい痕が残ってて」
 
 言い辛そうにそれだけ言うと、望美さんはぽろりと涙をこぼす。
 
「だから、その……。弁慶さんとこうなることが嬉しいって思うのと同じくらい、……こうなることが怖くて」
「君は……」
「私、全然綺麗じゃない。見られたらきっと弁慶さんに嫌われちゃう……」
「見せてください」
 
 僕は、彼女がこちらの世界の衣を身に纏うようになってから、いつも几帳面に襟元を整えていた意味と、その奥の彼女の心根を知る。  
 抗いがたい想いが僕を支配していく。
 可愛い、では言い足りない。愛しい、でも、まだ足りない。
 
「や、弁慶さん……っ、見ないで」
 
 愛らしいばかりの口ぶりに、頭がかっと熱くなる。
 穏やかに、痛みを伴わないように。
 そう念じている想いが、獰猛な感情に負けていく。
 僕は彼女を褥に横たわらせると、彼女の着物を剥いでいった。
 
 無理矢理開いた白い肌の上、紅で書いたような朱い線が延びている。
 触れた感じでは、微かに膨らんでいる、か。
 
「ふふ。……残念だな」
「はい……」
「この傷が残念なのではなくて、この傷を見たからといって、僕が君を嫌いになると思っていたことが残念です」
「で、でも……!」
「──── 全部、僕のものです。傷も、君も。全部」
 
 春の宵はどこまでも生暖かい。
 僕は彼女の傷痕に舌を這わす。少しずつぬくもりを増してくる身体が愛しくて仕方ない。
 
「駄目……。そこは」
「……全部僕のものですから」
 
 うわごとのように拒絶を繰り返す唇を覆う。
 そして彼女の後頭部に手を当てると、より奥へと侵入する。
 触れるか触れないかくらいの柔らかな口づけしか知らない彼女には少し酷かもしれない、けど。
 彼女の注意を、傷以外に逸らせて。
 辿り着いた先で、この愛しい人の笑う顔が見たい。
 
「んんっ」
 
 苦しそうに肩で息をする望美さんは、まぶたを閉じて僕に身体を委ねている。
 望美さんの舌を巻き込んで軽く食み、歯列も、舌の裏側も。口の中のすべてを舌先で触って擦る。
 絡めた舌を吸い上げて、卑猥な音を立てながら、甘い蜜をすすった。
 
 舌を合わせることの気持ちよさに、望美さんは僕にされるがまま、うっとりと快楽の波に酔っている。
 何度となく混ぜ返され、留まりきれず彼女の口の端から溢れる二人の蜜。
 それはやがて頬に添える僕の手の隙間を縫って伝い、彼女の首筋を伝い落ちていく。
 
 彼女がその雫に震えるのを見てようやく、僕は紅く色づいた唇をついばんで息をついた。
 
「……困りましたね」
「ん……、な、にが?」
 
 舌が思い通りに動かないのだろう。
 舌っ足らずな口調で望美さんは僕を見上げてくる。
 唇の端に二人の雫が長く伸びている。
 放心したように僕を見守る視線は、思わず見とれてしまうほど艶っぽい。
 
「触れているだけでこれだけ気持ちがいいものを……。君の中に入ってしまったらどうなるんでしょうね」
「し、知らない……」
「──── 君になら、僕のすべてをさらけ出してしまいたくなる」
 
 僕はもう一度傷痕を唇でなぞると、その下に色づいている二つの飾りを口に含む。
 僕の手に誂えたようにぴったりな小ぶりの胸は、先端を弄るたび、ぴくりと大きく波打った。
 
「本当に、君は可愛い人ですね」
「駄目、私、なんだか、おかしい……」
「ええ。僕も同じですから」
 
 ときおり、さらりと自分の髪が彼女の身体を撫でていく。
 挟み、捏ね、摘み、唇で愛撫した先は、やがて自分の意志を持って立ち上がり始めた。
 その下、白くて柔らかい部分に僕は強く吸い付く。
 まばらに見えた朱い花びらは、やがて数え切れないほどの枚数になって彼女の身体を彩り始めた。
 
「望美さん、……ここも見せてください」
「……はい? そ、そこは……!」
「大丈夫ですよ。怖いことなんてなにもないですから」
 
 上半身はくまなく花が散ったというのに、彼女の両足はまだ頑なに閉じられたままだ。
 僕は彼女の腿から膝にかけて手を這わすと、腿の付け根に口づける。
 少しずつ抵抗が弱くなってきた頃を見計らって、僕は彼女の間に滑り込んだ。
 そして彼女の秘裂を左右に広げ、ねっとりと舌で可愛がる。
 最初にとろりとした濃い蜜が。
 やがて少しずつ、さらさらとした甘い蜜が流れるのを、わざと大きな音を立ててすすった。
 
「だ、駄目。弁慶さん、そんなところ、穢い、です……」
「穢くないですよ? 愛しくて、……泣かせたくなる」
「恥ずかしいの。やめて……。お願い」
「……すみません。それは聞けないかな」
 
 襞に隠れて見えなかった突起は、やがて朱く腫れ上がって途方に暮れている。
 あまり虐めるのもかわいそうかな、と、尖らせた舌で突き、様子を見る。
 ぴくりと大きく波打つ彼女の身体は、息をするのも苦しそうだ。
 僕は腫れ上がった突起を唇で覆いながら、望美さんの中へ長い指を差し込んだ。
 
「痛いですか?」
「う、ううん……。もう、よく、わからない……」
「一度僕自身を入れてしまったら、加減ができなさそうだから。……少し辛抱してくださいね」
 
 彼女の中を少しずつ拓いていく。
 少しでも、痛みが少なくなるように。あとで辛くないように。
 いつか、このときのことを振り返ったとき、僕に抱かれたことを、彼女が笑って思い出せるように。
 
 僕は指をもう一本増やすと、彼女の中をかき回すように揺らしていく。
 指に返される熱と弾力は、ともすれば穢れている僕を拒絶している清い乙女のようだ。
 僕は自分の考えに軽くかぶりを振ると、彼女の秘裂に自分を押し当てた。
 
「……そう、そのまま。いい子ですから力を抜いていて」
「ん……っ!!」
 
 やはり指とそのものとでは質感が違うのだろう。
 彼女は痛みを訴えることはしないものの、苦しそうな表情を浮かべている。
 彼女の中には先端だけ埋まっている。
 痛みを散らすように、宥めるように、彼女に口づける。
 望美さんが口づけに気を取られている瞬間に、僕は奥まで腰を進めた。
 
「あ……っ!」
「少しずつ、蜜が出てきましたよ? ほら……」
 
 僕を伝って流れてくる甘い蜜は、潤滑油となって僕の動きを滑らかにする。
 
 相手を満足させること。必要な情報を引き出すこと。
 この二つのために、今までの僕は何人もの女人の上を通り過ぎた。
 なのに、どうしたというんだろう。
 ただ、彼女を抱いている。彼女に抱かれている。
 それだけのことがこんなに気持ちいいなんて。
 
 きつくて狭い彼女の中は、僕が腰を揺らすたび、さらに固く締め付ける。
 僕は彼女の手を握ると、そっと自分の頬に押し当てた。
 指先で脈打つ鼓動は、確かに今、この時代に彼女はここにいて、僕に身体を預けていることを伝えてくる。
 
「……いつから、僕は君のことが好きになったのだろうと考えていました」
「弁慶さん……?」
「気づけば、君とこうしているのが当然で。君がいるのが当然で。
 ……君の手がこうやって僕を導いてくれました」
 
 初めての彼女をもっと気遣うべきだと思いながらも、だんだん抽送は激しいものになっていく。
 
 
 
 
 初めて、といえば、そうだ。
 僕も女人の中で達くのは初めてかもしれない。
 僕は彼女の腰を抱きかかえると、最奥に向かって精を放ち続けた。
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