*...*...* 養花雨 1 *...*...*
 香穂子が高3になった春。
 立派に在校生代表として新入生歓迎会での演奏をやりきったお礼にと、私は夜桜の見える寿司屋に彼女を誘った。
 才能のある人間というのは、それだけでやや性格的には偏りがちになる人間が多いというのに。
 香穂子の優れた点、というのは、本人の持つ音楽性以上に、素直な人間性だと私には思える。

『なにしろ君の演奏を聴いて、この学院に入学しようと決めた人間もいるらしい。
 君の影響力というのはかなりのモノだということを、自分でも強く意識するように』

 そういう私に、最初は戸惑っていた彼女だが、私の心配は杞憂に終わった。

 春のコンクールからの付き合いだという土浦君、そして、志水君。
 あげくは今年度の新入生の桐也にいたるまで、彼女の周囲の人間はたくさんの助言を投げかける。
 また、そんな彼らの好意を、香穂子は従順に受け入れている。
 彼女のこういう特性は、彼らのかまってやりたいという気持ちを助長するのかもしれない。
 ── そう、今の私のように。

「ごちそうさまでした! すごく美味しかったです」
「それはなにより。新鮮なネタが入っていて、私も楽しめたよ」

 寿司屋からの帰り道。
 私はいつもどおり、香穂子を助手席に乗せ、高速を飛ばしていた。
 春の雨は柔らかくアスファルトを濡らし、矢のように流れる高速の光を受け、漆黒をさらに濃くしている。

「それにしても君は私の期待を裏切らない。これもファータの加護だろうか?」
「あはは。そうなんでしょうか? あ、吉羅さん、知ってましたか? リリちゃんのお店に新しい品物が並んだんです」

 アルジェントは良くも悪くもファータグッズの開発には熱心だ。
 私は彼女の白く浮かび上がる面輪に目をやった。

「ほう? 新しい商品?」
「はい。ファータ印特製、栄養ドリンクだそうです。私、ちょっと不安だったけど、この春休み、チャレンジしてみました」
「大丈夫だったのか?」
「あのね、いつもの2倍、1日に6回、アンサンブル練習や1人練習ができる、っていうドリンクだったの。
 今のところ、体調は問題ないような気がします」
「新商品ができると、いつも私を実験台にしていたアルジェントだからね。
 もし君になにかしらの弊害が起きるようであれば、私からアルジェントに厳しくいっておく必要がある」

 香穂子は、高級タマネギの試作品で私が泣きながらヴァイオリンを弾き続けたという、話を思い出したのだろう。
 明るい声を上げて笑った。

「今日の演奏、衛藤くんにも『頑張ったな』って言ってもらえました。よかった、です」
「桐也か。彼は身内ながらなかなか見所のある青年だと私も思っているよ。
 月森君のあとを背負って立つ生徒になるだろう」
「はい。私もそう思います」

 香穂子は食前酒に出されたヒレ酒のせいか、ご機嫌な様子で話し続ける。
 未成年。そして私も教職に携わる身として、口をつける程度で止めさせておいたのだが。
 ── こうしてみるとこの子は、かなりアルコールに耐性がないということになるのだろうか。
*...*...*
 彼女を抱くようになってから2ヶ月。
 年の差というのを今まで感じることがなく、今日までやってきた。
 共通な話題がないのはお互いさまだし、それほど気に病むことはない、と判断していたものの、
 最初は少しだけ不安材料になっていたのも事実だ。

 だが、香穂子との間に横たわる沈黙は、却って私を穏やかにさせた。
 沈黙が心地いいと思える相手、というのは、それだけで貴重だと、今の私ならわかっている。

 ホテルの部屋の中へ香穂子を誘うと、さきほどとは打って変わった緊張した雰囲気で彼女は足を踏み入れた。
 初々しさとの共存。
 今日の入学式。新入学生の前で堂々とヴァイオリンを奏でていた彼女とはまるで別人のようで、
 そのギャップにも心惹かれている私がいる。

「疲れたのだろうか?」

 背後から抱きかかえ、彼女の手にしているヴァイオリン、そして鞄を取り上げると、私は近くのソファの上に置いた。

「はい……。少し」
「君は素直に私に身を任せていればいい」
「……不思議、です」
「は?」
「今日の演奏よりも、ずっと緊張してる。私……」

 ため息とともに漏らされる言葉に、私はとたんに有頂天になる。
 確実に、私という存在は、ほかの何よりも強く、彼女に刻み込まれていると感じられることが嬉しい。

「ごめんなさい。私、シャワーを……」

 スカートの下に手を這わした私を止めるように、香穂子の指が私の手首に触れる。

「……かまわない。このままで」
「だ、だけど!」
「君はさっきの夜桜を見ただろう?」
「はい?」
「香りがないと思っていた花にも実はかすかに香りがある。今日のような日は、君からも甘い香りがするに違いない」

 花冷えという名にふさわしい雨降りの今日。
 半分は、雨に打たれて地面を覆い、もう半分は、名残惜しそうに自分の香りをあたりに振りまいていた桜を思い出す。

 香穂子の白い頬に乗る羞恥の色は、まさにさっき見た桜そのものだ。
 髪の間からほの見える、貝殻のような耳朶に触れる。
 耳の後ろからの首筋のライン。
 新入生歓迎会では桜色のドレスを着る、という彼女に、私はここしばらく私の印をつけることができなかったから。
 今までの分を上乗せするように、私は彼女の首筋を強く吸い上げた。

「吉羅、さん……」
「君の身体のことは、君よりもよく知っている」
「ん……」
「どこが好きで、どこが弱くて。どうしたら身体を震わせて……」

 私は子守歌を歌うように低い声で彼女に、言い聞かせるようにささやき続けた。

「どうしたら濡れて、どんなふうに私を締めつけるかも」

 私は制服を剥ぎ取ると、うつぶせのまま彼女を強引にベッドに押しつけ、背後からの彼女を見つめる。
 華奢な首から続く薄い肩。その先には静脈が透けて見えるほどの白い二の腕がついている。
 触れられると泣き声を上げる2つの乳房は、腫れ上がった色を先端につけて重く揺らめいていた。
 背骨に続くほっそりとした腰。その先の臀部は、思いもかけず豊かな実りを見せている。

「あ……いや。そこはっ」

 私は彼女を形作っている1つ1つの背骨を吸い上げるように口づける。
 尖り始めた胸の頂をそっと指で挟むと、耐えきれなくなったように、彼女の上半身はベッドに沈み、腰だけを持ち上げた格好になった。

「吉羅さん、私、こんなの……」

 ふだんはお互いの顔を見ながら進める行為に、今日は違和感を覚えたのだろう。
 生まれ始めた快楽に、香穂子は不安げに私を振り返った。

「ほう。まだ君はそんなことを考える余裕がある、ということだろうか?」
「余裕?」
「……なくすといい。不安も。恥ずかしいと思う気持ちも」

 私は彼女を覆っていた白い下着を一気に取り去ると、桃の両壁を広げ秘部を吸い上げた。

「や……っ。恥ずかしい、そんなところ」
「君のが溢れてきた。それほど寂しい思いをさせたつもりはなかったがね」

 ヒクヒクと熱いモノを欲しがるように震えている可愛いところに、指を2本差し入れる。
 暴かれて途方に暮れた表情の朱い突起に、きっちりと親指を添えると私の唇は桃を食べることに専念し始めた。
 胸と違ってどこに快楽の鉱脈が潜んでいるかわかりにくい。
 しかし丹念に可愛がり、香穂子の様子を観察しているうちに、少しずつ把握することができてくる。
 桃の下の部分。立てばふっくらとふくらむ1番高い部分。

 ── なるほど。よく覚えておくことにしよう。

「吉羅さん。私……。また、出ちゃうの……」
「そろそろ指では 塞ぎ切れなくなってきたようだ」

 しゅる、とベルトを抜き取る音がやけに淫靡に聞こえてくる。
 私はふとある考えに囚われると、猛り立った自身を直接彼女に塗りつけた。




「今日は、中で出しても かまわないだろう?」
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