*...*...* Voice 2 *...*...*
「も、もしもし……。日野、です」
『あ! 香穂ちゃん? おれ、火原だけど、今、ちょっといいかな?』
「ひ、火原先輩?」
『あのさ。明日行く、大学の書庫のことなんだけど』

 携帯からは、聞くためにわざわざ耳をそばだてる必要もないような、元気な声が響いてくる。
 これでは、腕の中にいる香穂子の声の方が小さいと感じるくらいだ。

「は、はい……。あの、ありがとうございます」

 香穂子は、胸を抱えている俺の手の上に手を重ねて、返事をしている。
 どうやら、俺の手が動かないように、と押さえているつもり、らしい。
 俺は香穂子の手をつかむと、直接自分の胸に触れさせた。

「な……?」
「……静かに。火原に聞こえてしまうよ?」

 そして香穂子の手の上に、自分の手を重ねると、柔らかい肉片をやわやわと持ち上げる。

『えーっとね。香穂ちゃんさ、シューベルトの調べ物に、どれくらいの時間が必要? 1時間くらい?』
「え、っと……。そうですね……やっ」
『香穂ちゃん?』

 もう片方の俺の手は、俺に忠実に、香穂子の下着の金具を見つけ、外していく。
 香穂子は身体を捩って、止めさせようとするが、片手が携帯で使えないせいか、思い通りにいかないらしい。

「ふうん。明日、俺を放っておいて、火原と出かけるの?」

 右耳に俺の声を注ぎ込む。
 一方香穂子の左耳には、明るすぎる火原の声が注ぎ込まれる。
 みるみるうちに香穂子の耳朶や首筋が紅く染まっていくのが面白くて、露わになった2つのふくらみを撫で上げた。

 場違いな空間に飛び出したとでも言いたげな朱い尖端。
 つまむとそれに応えるかのように芯を太くし、顔を持ち上げて、婀娜っぽい表情を見せてくる。

「あ、あの……。1時間くらいで大丈夫だと……っ」
『そっかー。3時集合だったよね。じゃあ、そのあと、少し時間があるね。そうだ。大学のオケでも見に行く?』
「はい……っ」

 香穂子は、声を揺らさないように、と必死になって携帯に話しかける。
 俺は指先でつまんだ朱い可愛いものに愛撫を繰り返しながら、右耳の中に舌を押し込んだ。

「……いや。止めて……っ。ね? お願い」

 右側にいる俺に、小声ながら懸命に訴えてくる声。
 でもそれは右側の携帯にも伝わったのだろう。

『あ、れ……? 香穂ちゃん、オケ行くの、イヤだった?』

 火原の暢気な声が広がる。

「いえ、あの、そういうわけではなくて……っ」
「へぇ。このブラウスは、ボタンがスナップになっているんだ。男好みの服っていえるかな」
「あ……っ。や、やだ」

 両手でブラウスの袖を引っ張ると、中からはむき出しの白い肩が現れた。薄い肩だ。

 男の中でもどちらかと言えば華奢な体つきだと自分のことを思っていたが。
 香穂子の肩は、ちょっとちからを入れたなら、簡単に壊れてしまいそうな儚い弧をを描いていた。
 紅茶のせいか、暖まった室内の空気が、香穂子のうなじや鎖骨、飛び出した白い身体を包んでいる。

「お願い。もう少し、待ってて……っ」

 俺のいたずらをこれきりで止めさせようと、香穂子は俺の方に顔を向けた。
 俺は香穂子の困惑に気づかないふりをして唇をふさぐ。

「……あっ!」

 香穂子は、携帯に気を取られ、俺にも気を取られ。
 眉間にしわを寄せつつも、固く閉ざされていた膝がゆっくりと開いたところで、
 俺は右手をスカートの中に滑り込ませた。
 瑞々しく白い肌が手のひらの上を滑っていく。

 口内を何度も舌で侵したせいだろう。
 香穂子はさっきよりも とろりとした表情を浮かべたまま、携帯を耳にあてがっている。

「先輩……」
「先輩? それは、俺たちどっちのことを言ってるの? 俺? それとも火原?」
「そ、それは……っ」
『香穂ちゃん? 大丈夫?』

 指は確実な意志を持って、香穂子の脚の付け根へと向かう。
 そして湿り気の増した下着の上、敏感な部分に触れた。

「あ、先輩、やめて……」
「ほら、また言った」
「ん……っ」
『香穂ちゃん? あれ? 電波の調子、悪いかな? 大丈夫?』
「あ、あの……。火原先輩。イヤ、じゃないです。行きたいです」

 香穂子は、体をよじると必死に言葉をつないでいる。
 その返事に勢いを得たように、火原は話し続けた。

『あ、やっぱりオケ部に行く? オッケー。じゃあみんなに声かけておくね』
「はい……っ。い、行きたいです」
「ふぅん……。香穂子はイキたいんだ」

 俺は下着の脇から指を滑り込ませると、いつも必ず俺を受け入れる場所へと一番長い指を押し込んだ。
 湿り気を増したそこは、まだ明るい場所で見たことはない。
 だけど、今、目の前で揺れている胸の尖りのような優しい色をしているのだろうか。

「え? あ……っ。や……」
「ねえ、香穂子。── お前が俺の手の中で壊れたら、お前はもっと小さくなる?」
「は、はい……?」
「小さくなったら、俺は懐の中に入れて、お前を持ち歩けるかな?」
「ん……っ」

 会えない時間を、メールや電話で埋めてきた。
 だけど、それだけじゃ伝わらないものがあると知った。
 声だけじゃ足りない。言葉だけでは伝えられない。
 ましてや俺たちの架け橋となった音楽でさえも。

 ── 俺が、これほどまでにそばにいて欲しいと願う人間は、こいつが初めてかもしれない。

『あ、あれ? 香穂ちゃん。なんだか呼吸が荒くない? 大丈夫?』

 さすがに途切れ途切れの息継ぎを不審に思ったのか、火原は心配そうな声を上げた。

「……火原に言う? 今、俺にどうされてるか、って」
「!!」

 香穂子は怯えたように激しく首を振った。
 怯えたような目の色と、まなじりに光る涙。
 余裕のないその表情は、俺を煽るのに十分で。

「へぇ……。火原に知られるの、イヤなんだ」
「あ、当たり前、です……」
「そう」

 無防備に晒された丸い突起を親指で覆う。
 フルートと違うところは、覆ってからの動作。
 香穂子の場合は、優しく覆ってから、ゆっくりゆらし続ける。

「……っん!」

 大きな波がやってきたのだろう。
 香穂子はぴくりと全身を震わせると、携帯が音もなくソファに滑り落ちた。

 携帯を拾い上げ、目配せをしても。それ以降、香穂子は半泣きの表情で首を横に振るばかりで。

「やれやれ。しょうのない子だね。……ああ。火原? 柚木だけど」

 俺は大げさにため息をつくと、携帯に話しかけた。

『あ! 柚木。あれ? 今、香穂ちゃんと一緒にいるの?』

 深く押し込んだ指は、新たに生まれたぬめりの中、滑らかに動き出す。
 香穂子は甘い声を漏らすまいと下唇を噛んで、快感をやり過ごしている。

「ああ。どうも香穂子は練習で根を詰めすぎて、貧血を起こしてしまったみたいなんだ。
 無理して電話に出したけど、まだ、苦しそうだね」

 親友は明るい声で笑っている。

『なんだー。そうだったのか。納得だよ。でもさ、あまり無理しないように言っておいて』
「了解。明日は、香穂子のこと、よろしくね」





「……香穂子。ああ、もう泣かないの。悪かったよ」
「柚木先輩は、ひどいです。意地悪だと思う……」
「今更 なに言ってるの?」

 香穂子は俺の声も耳に入らないような様子で、あれこれと考え続けている。

「火原先輩、なんて思っただろう……。想像しただけで泣きそうです!」
「火原は、気づいてないだろう。今はね。
 だけど、あいつもずっとあいつのままじゃない。いつか気づくときがくるだろうね」
「そんな!」
「── だからって、お前を火原にあげる気はないけど」


 窮屈なソファの上、俺は香穂子の体を自由にしながら、香穂子の話を聞く。
 火照った頬で、困ったように眉を顰めては羞じらっている香穂子を、俺は笑いながら見つめる。

 ── 2週間ぶりに会ったんだ。
 お前をたっぷり感じるという贅沢くらい、許されるだろう?
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