*...*...* Embrace 4 *...*...*
 あれから、少しだけ波と遊んだあと。
 おれは黙って香穂ちゃんの手を引くと、海の近くに立ち並んでいるシティホテルの一室に滑り込んだ。
 自分の中にある気持ちをどうしても香穂ちゃんに伝えたいと思ったし、伝えるには言葉だけじゃ足りないって思った。
 おれのしたいことをするには、人目が邪魔だったからだ。

「火原先輩……。あの、どうしたの?」

 あまりに、いつものおれと態度が違ったからだろう。
 部屋に入るなり、香穂ちゃんは不安そうにおれを見上げた。
 怖がらせるつもりは さらさら無いのに、おれの顔は上手く笑顔を作れないでいる。
 おれは香穂ちゃんの頬に手を当てた。

「……おれ、香穂ちゃんが好きだよ。すごく、すごく好きだ。だけど、上手く表現する方法が見つからないよ」
「先輩……」
「トランペットでこの思い、伝わるかな、って思ったけど。今まではそれで良かったけど。
 きみの身体を知った今は、もっと確実な方法で伝えたい、って思う。── ねえ、きみを抱いていい?」

 こんなおれは怖いのかな?
 香穂ちゃんは一瞬怯えたように唇を噛むと、そっと目を閉じた。
 おれは香穂ちゃんの身体をベッドに横たわらせる。
 香穂ちゃんの身体は、海の香りと、少し残った砂の匂い。それに、香穂ちゃん自身の甘い香りに満ちている。

 ホントにおれって余裕ない。

 海にいたときだってそうだった。
 香穂ちゃんの背中に日焼け止めを塗ろうとして、勝手に焦った。
 波と遊んでいるときだって。
 ちょっとでも香穂ちゃんの身体が当たると、どくんと身体の奧が熱くなって。
 香穂ちゃんの身体を覆っている小さな布。その中におれの印をつけたくて仕方がなくなった。
 いや、触れるだけじゃない。
 香穂ちゃんの中へ、手に負えない自分自身を押し込みたい。そう思ってた。

 強引なキスに香穂ちゃんは苦しそうに口を開ける。
 無理矢理舌を押し込むと、香穂ちゃんの目尻に光るモノが滲んだ。
 おれは香穂ちゃんの舌を絡めて引っ張り出すと、自分の口内で何度も甘噛みをした。

 どうしよう。いつだってそんなに香穂ちゃんを抱くことに自信があるわけではないけど。
 今日だけは自分ばかり突っ走って、香穂ちゃんを壊してしまいそうだ。

 前開きの飾り物のような白いキャミソールのボタンを外すと、そこには、真っ赤に日焼けした肌と、その先に青ざめた白い肌があった。
 おれは2つの境界線を丹念に舐めていった。

「……痛い? 香穂ちゃん、ヤケドしたみたいに真っ赤だよ?」
「ん……。日に当たるとすぐ赤くなっちゃうんです」
「舐めたら、クールダウンできるかな?」
「あ、そこ……」

 おれは、首から、耳。脇から、胸の下。それに腰の下の赤らんだラインに唇を這わす。
 ちょうどおれの舌が、おへその窪みあたりに来たとき、香穂ちゃんの反応が大きく変わった。

「……んっ。やぁ……っ」
「香穂、ちゃん?」

 なんだろ。
 香穂ちゃんを何度か抱いてからのおれは、それこそ付け焼き刃のように、
 アニキの部屋にあった『女の子と付き合うには』なんていうノウハウ本を読んだ。
 もちろん、そういう本の中には、『女の子の性感帯』なんていうあからさまな記事もあって、それなりに目を通してはみた。
 ── だけど。
 胸、と、その……女の子の大事なところへの触れ方、みたいな話はあったけど、
 その2つ、以外の場所でもこんな風に、変化がある、なんて書いてなかったのに。

 ……だけど、腕の中にいる香穂ちゃんを見てると、おれの触れ方は間違ってない、って確信が持てる。
 このまま、進めていっても、いいんだ、って。

「香穂ちゃん、ここも日焼けしちゃったの? 真っ赤だよ?」

 胸の頂きに唇を這わす。
 そう言って赤い実を口に含むと、痛くないようにそっと先を舐めた。

 女の子って、どうしてこんなに柔らかいんだろう。
 胸なはふわふわと、おれの手のひらに収まる。
 優しくもみ上げると、指のすき間から豊かなふくらみがこぼれ落ちるようだった。

 今日は、止められなくなりそうな予感がする。
 ── 自分の身体も、そして心も。

「おれ、香穂ちゃんの身体、全部見たい」
「先輩……」
「全部見て、全部感じたい。……いいよね?」

 おれは香穂ちゃんの返事も待たずに、香穂ちゃんの脚の間に座ると、淡い色の下着を取り去った。
 かすかな翳りの奧から、花の香りが漂っている。
 いつもおれを受け入れてくれる場所を、こんな明るいところで見るのは初めてかもしれない。
 おれは香穂ちゃんの身体を2つ折りにすると、大きく脚を広げた。

「や、やめて。そんな。見ないで、お願い」
「どうして? 香穂ちゃんすごくキレイだよ。今日見た海みたいに、きらきら光ってる。ねえ、どうして?」
「え……?」
「どうしてこんなに光ってるの? おれに見られると濡れちゃうの?」
「いや……っ」

 香穂ちゃんはおれの声を拒絶するように、耳に手を当てた。
 おれの顔を覆っていた手が離れていったのをいいことに、おれは香穂ちゃんの光っている場所に口づけた。

「こんな風になってるんだね。── 可愛い」

 初めて間近に見た女の子のそこは、おれにとっては衝撃だった。
 ヒクヒクと波打つ桃色の襞。入り口の上には紅い突起がもったりと横たわってる。
 押し広げていくと、そこはピンクのグラデーションが色濃く染まっていく。
 思い切り吸い上げたい気持ちを抑えて、胸へ触れたときのように、すっぽりと口の中に入れて舌先で転がす。

 ああ、女の子って、どうしてこんなに可愛いんだろう。
 香穂ちゃんの甘い声が、部屋中に響いている。
 そしておれは、どうしてこんなにも香穂ちゃんが好きなんだろう。

 今までどんなオペラを聞いても、『恋に狂っちゃう』だとか『激しい嫉妬』とか、ってまるで胸に響いてこなかったのに。
 今のおれときたら、これからの未来、香穂ちゃんが出会うであろう男たちにも嫉妬しそうなくらい、香穂ちゃんに狂ってる。

「ごめんね。おれもそろそろ 辛抱できないみたい」

 香穂ちゃんが言葉にならない嬌声を上げ始めたころ、おれはようやく顔を上げた。
 そして、ポケットの中に入れておいた避妊具を取り出すと口端で強引に開封する。
 手を使うことはできたけど、そうしたら、一瞬でもおれは香穂ちゃんから手を離すことになる。
 それがどうしてもイヤだったからだ。



 いつもおれが求めるばかりの行為。
 今日は香穂ちゃんも、おれが香穂ちゃんを求めるのと同じくらい、香穂ちゃんもおれを求めてくれたら。
 そう思いながらおれは自信の先端を香穂ちゃんの光る場所へ押し当てた。
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