「本当にお前さん、美味しそうな身体になったな……」

 幼い恋人の身体を組み敷きながら、脳みその一部はやけに冷静にこの状態を分析している。
 どう考えたって俺はあいつに釣り合わない。
 年齢の問題じゃない。可能性の問題だ。

「先生、この、部屋は……、イヤ……っ」
「ふうん。そりゃまたどうしてだ?」
「だって……。誰かが来たら、って思うと」
「そうかぁ。まだお前さん、そんなことを考えるゆとりがあるんだなあ」
「ん……っ」

 真西に面している音楽準備室からはオレンジ色の夕陽が差し込んで、ソファの上で乱れている香穂の肢体を優しく映す。
 若さって、失ってから初めてどれだけ大切だったか、って知るんだよな。
 華奢な首から続く、柔らかな胸のライン。
 恋人の産毛は、俺の舐めた向きに従って金色に輝き、さんざんしゃぶった頂きの先端は、熟れた苺のように朱い。

「金澤、先生……」

 俺と繋がっている恥部からは、止めどなく甘い蜜が溢れてくる。
 俺は泉の源を探し当てるかのように何度も浅く腰を揺すった。

「ったく、たまらないよ、お前さんは」
「あ、あ……っ」

 どうやら、俺の先端がこの子の敏感なところを突いたらしい。
 香穂はゆらりと俺の動きを追いかけるように細腰を持ち上げた。

「言ってみな。全部お前さんのいうとおりにしてやるから」
「ん……っ。あ、そこ……」
「早く達きたいんだろ? ……ここが好きなのか? お前さんは」
「もう、私……っ」
「……ったく、どうしてお前はそんなに可愛いんだろうな」

 両手の指の数くらい抱くようになって知ったこと。
 甘い身体の香り。右脇にある、2つのほくろ。
 ──── そして、乱れ始める前の小さな予兆もだ。
 今日もいつもに違わず、香穂の身体は中心から小刻みに痙攣を始める。
 湖面に生まれたさざなみのように それは大きなうねりとなり、全体に行き渡るころ、もう1度強く俺を締めつける。
 それを味わい尽くしたところで、俺はゆっくり射精する。
 行き先はゴムの中。
 普通の男ならナマで、って思うかもしれないが、俺にはこれで十分だ。
 こいつの未来に、俺の痕跡なんて残せやしない。

「金澤、先生、私、私……っ」
「いいぜ? ちゃんと気持ちよくなれよ?」

 香穂の膝裏に腕を通す。思い切り真上から突き上げようとしたそのとき、カチャリとドアノブをひねる音がした。  
*...*...* Star 1 (金澤) *...*...*
「金やーーーん! おい、金やん! カギかけて、お昼寝中? おーい、起きろ−。出てこーい!!」
「……一応教師だ。金澤先生、と呼べば返事をしてくれるかもしれない」
「そうかぁ? 山崎。そういうもんか? じゃあ、言ってみるぜ? 金澤先生! いるなら返事、して〜ん。アタシよ、ア・タ・シ!」
「……お前の野太い声じゃ、とても女生徒が呼んでいるようには聞こえないだろう」

 ドア1枚、隔てたところで、生徒2人の声がする。
 1人は1年の木村。トランペット専攻の、ノーテンキなヤツ。そしてもう1人は、これも1年の山崎。これはフルートの堅物だ。
 ちょうど去年卒業してった火原柚木のコンビに似たところがある、凸凹コンビだ。
 香穂は俺の下で、動きを止めた。
 ぎゅっと締まった陰部は、俺をそのまま快楽に引きずり込むような激しさがある。

「……って、香穂……?」
「……っ!!」

 耐えきれずに腰を2度3度前後に動かすと、香穂の中の大きなうねりはゆっくりと先端まで行き渡り、やがてゆるやかに弛緩していく。

 ……達っちまった、ってことか。

 息をも潜め胸を高鳴らせている香穂の様子は、俺に、背徳の苦さと甘みを伝えてくる。
 こんな風に、心も身体も。
 すべて許してくれるこの子に、俺はなにをしてやれるんだろう、ってな。

「……これだけ言っても出てこないんだ。きっと金澤先生は別の場所だよ」
「そっかなー。って、なんかこの部屋、人の気配があると思うんだけど」

 ドアノブを弄っていた木村は、あてこすりのように最後にブンと大きく回転させる。
 身体全体が聴覚になった勢いでドアの向こうを想像していると、やがて2人の足音が遠ざかっていくのがわかった。
 これなら、一難去って、ってところか。

「……!!」

 俺は少しずつ落ち着きを取り戻しつつある香穂の身体に、再び分身を深く沈めた。
 達したばかりの身体というのは、男にはわからない敏感さがあるのだろう。
 普段は甘い声を出す香穂が、今日は快楽を身体から取り出す術を知らないのか、可哀想なくらい身体をビクビクと痙攣させている。
 ──── あと、少し。
 俺も、あと少しで、思いの丈をぶつけることができる。

「……香穂。いい子だから、少しだけ辛抱してろ」

 下半身のうずきにキリをつけるために、耳朶を甘噛みしながらそう告げると、香穂は涙目になりながらこくりと頷いた。

 この状態まで持ってきちまった今、さて、このまま元に戻れと言われても難しい。
 ここは、さっさとカタをつけた方がいい。

 ……先に香穂をイかせるのが1回。
 そして、俺が達くときに達かせるので、2回。
 最近の何度かはそのパターンになってきてたけど、こんなシチュエーションじゃ、今日はあいつの2回目を待ってやれないかもしれない。
 俺はやや強引に腰を進める。
 2人が繋がった場所からは、だらしなく何かを租借するような、卑猥な水音が広がった。

 快楽にまみれた表情を浮かべた香穂が下にいる。
 言葉という伝達手段を取り除かれた今、まさにこういうのがボディトークっていうのか?
 目の動きだけで、今香穂がなにを思ってるかがビンビンに伝わってくる。

「あ、そうだ!! ねぇねぇ、山崎〜」

 ……あと、数回。
 数回摩擦を繰り返せば、目の前に電光が走るようなあの感覚が落ちてくる。
 そう思った瞬間、またしてもボウズたちの声がドアに近づいてきた。

「山崎。あそこにあるパイプ椅子、ドアの前に持ってこようぜ?」
「木村?」
「ほら、あのドアの上。あそこに小さな風取り窓があるだろ?
 あそこから覗けば、金やんがソファで寝てるかどうか、ハッキリするよ!」
「……ねえ、木村。なにもそこまでしなくてもいいんじゃないかな。
 君の用事はそれほど緊急性の高いモノというわけではないのだから」

 瞬間俺は、ドアの上に目をやる。
 幅60センチ、高さ20センチくらいの窓は、この学院の設計者がこだわった部分の1つだったのだろう。
 端には小さなステンドグラスが施され、ときおり通る風は、季節の変化を感じさせてくれることもある。
 パイプ椅子。木村。
 あいつの背は、俺より少し低い、ってぐらいか。
 だったら、あいつの目には、男女が交わっていることくらい、簡単に見渡せるだろう。

 俺は香穂の頬を軽く舐めると、こいつの片脚を高々と持ち上げて、体位を変える。
 そしてバックの体勢を作ると、自分の身体で香穂のそれをすっぽりと覆った。

 女の顔や体型を見ることができないこの体勢なら。
 今のこの痴態をボウズたちに見られても、香穂だけは守れる。
 香穂が俺を切り捨てて、否定すればいい。
 私と金澤先生が? あなたたち、なにを言ってるかわからない。バカにしないで? ってな。

 香穂は俺と離れることを想像していたのだろう。
 繋がったまま替わった体位に、涙を浮かべながら俺を見上げた。

「……このまま、こうしてろって」

 うなじをキツく吸い上げながら、腰を振り続ける。
 ソファの端を握りしめた香穂の指先は真っ白だ。
 ……こいつの不安なんか、全部、俺に移っちまえばいいのにな。

「……っ」

 思いの丈をまき散らしながら、ぷっくりと膨らんだ朱い豆を人差し指で優しく潰す。
 すると香穂はピクンと2度大きく身体を震わせたあと、やがて俺の胸の中で仔猫のように小さくなった。

 ドアの外からは山崎の呆れたようなため息が聞こえる。

「ほらほら、木村。冗談はそれくらいにして。そうだな。今からちょっと図書室に行ってみないか?
 毎月第2金曜日は新書が入荷するんだ。君の頼んでいた本が届いているかもしれない」
「あ! そうなの? なんだ、山崎、それを早く行ってくれよ。本は金やんと違って動かないからなー。そっち先に行こうぜ?」





 2人の生徒の足音は今度は確実に遠ざかり、俺と香穂の間には荒い息遣いだけが残った。
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