*...*...* Sweet 3 *...*...*
寝室のドアを開けると、サイドテーブルにある灯りだけが暗闇の中に浮かんでいた。なにもかもが和風のしつらえの中、ここ寝室だけは香穂子の好みもあり、洋風で統一されている。
ベッドの端、白っぽいパジャマを着た香穂子が、固い面持ちで腰掛けていた。
裾から見える素足は蝋人形のように、白く透き通っている。
「寒いだろう? ベッドに入っていれば良かったのに」
「ん……。なんだか緊張しちゃって」
心持ち強張った表情の香穂子は、どこまでも初々しい。
── どうしてこいつは、こんなにまで、俺の庇護欲と独占欲をかき立てるのだろう。
結婚してしまえば、この手の類の感情は消えていくと思っていたのに。
手に入れた今となっても、何度でもイジめたくなる。
そう。……イジめるという行為で可愛がりたくなる。
俺は香穂子の横に腰掛けた。
ひんやりとした身体がそっと寄り添ってくる。
この肌が、風呂から出たばかりの俺の体温より高くなって。やがてひっそりと汗ばむ頃、
俺自身の中に渦巻いている欲望は、ようやく満足して、納得して、おとなしくなるのかもしれない。
「お前、明日の予定は?」
「え? 明日ですか? ……はい。特に予定はないです」
「そう」
「どうしてですか?」
「── だったら今夜は、多少無理させても大丈夫かと思って」
顔中に唇を落としながら、パジャマの裾から手を差し込む。
ぴくりと身体が震えた理由は、これからの行為への期待か、怯えか。どちらなのだろう。
最近、唇だけの軽いキスを繰り返していた俺は、ふいに目の前の花を散らしたくなった。
「あ……っ。んん……?」
目の前の柔らかい花を性急にこじ開け、内に潜んでいる甘い実を引き出す。
微かに胸を押しのけるような仕草を感じたが、俺は後頭部に手を差し込むと、貪るように香穂子の口内を味わい続けた。
「もう、何度、お前とこういうことをしただろう」
大きくも小さくもない胸のふくらみが、吸い付くかのように俺の手の平に入り込んでくる。
結婚したからといって、それほど大きさの変化は感じない。
しかしみずみずしさと柔らかさは、以前とは比較にならないほど豊かに実り溢れている。
「あ……。気持ちいい……」
「ずっと俺が欲しかったの?」
些細な愛撫だけで、香穂子は身体中の花が咲くような反応を示す。
上に向かって固くなる朱い頂きも。すぐ湿り気を増す下半身の泉も。
きっと明日、顔を赤らめてシーツを干す香穂子の顔が目に見えるようだ。
2つの飾りはそこだけがまるで別の生き物のように、朱く腫れ、首をもたげている。
俺は音を立てて、しつこいまでに吸い上げた。
「先輩……」
「違うでしょう?」
「あ、は、はい!」
「飽きないよ。お前は。何度でも、泣かせて。何度でも、お前の中に入りたくなる」
まったく触れていないのに、下腹部はなんの愛撫も必要のないほど、濡れそぼっている。
ゆっくりと1番長い指を香穂子の中に沈み込ませる。
可愛い耳に淫らな言葉を注ぎ込むたび、香穂子の身体はピクリと俺の指を締めつけた。
「すごくいいよ。香穂子」
そのたびに香穂子の中から熱い蜜が溢れ出る。
何年経っても自分の欲望を口に出せない香穂子は、自分の腰を俺の腹部に押しつけた。
「先輩、もう……。もうっ」
「なに? 言ってくれないとわからない」
「あ、また、出ちゃう……っ。や、や……っ」
抱く前とはまるで違う形に腫れ上がった蕾を、優しく潰すように人差し指で塞ぐ。
その途端、ぴゅ、っと、香穂子の熱い蜜が俺の手首まで滴った。
「辛そうだね。こんなに熱を持って」
「ね、お願い。私……っ」
香穂子は涙目になって、腰を揺すった。
祭りが果てたあと、いつも恥ずかしそうに抗議を受けるのは分かっていたけれど。
香穂子の恨めしげな表情は、いつも俺の欲望に火を付けた。
俺はいったん身体を離すと、半身を起こす。
ふっと、香穂子の身体が柔らかくなったのがわかる。
香穂子の脚の間に滑り込む。
濡れそぼった秘所は、小さな薔薇の蕾のように幾重にも桃色のグラデーションがかかっている。
「今夜は、徹底的に抱いてあげる」
「や、やだ。怖い。……イヤ……っ」
「そんなこと言って。イヤじゃないくせに」
俺の起立した分身で満たされると思っていたのだろう。
わざと焦らすように、唇で優しく吸ってやると、俺を受け入れる場所からは甘ったる匂いが溢れてきた。
「柚木先輩、きて。お願い。……1人はイヤなの。一緒がいいの」
「……そんなに煽らないの」
「え……?」
「分かるだろう? 今の俺がどうなっているか」
理性が勝っているときは、梓馬さん、と呼びかける香穂子だが、ある一線を越えると今までの慣れが出るらしい。
愛らしい声を響かせ続ける。
俺は鋭角に起立した自身を勢いよく押し込む。
ゆるゆると忍び込んでいた分身は、さらに強さを増して最奥をつついた。
結婚は俺と香穂子の性生活をどんな風に変えたのだろう、と考えたとき、
1番最初に思いつくのは、妊娠を避ける行為をまったくしなくなったことだろう、と思いつく。
隔てるものがなに1つ存在しない中、俺と香穂子は、その遊びしか知らない子どものように、貪欲にお互いを求め続けた。
1箇所だけ、香穂子の反応が大きく違うところを何度も突きながら、俺はすっかり無防備になっている朱い突起に指を当てた。
「あ、一緒は、だめ、もう……。ダメ……っ」
「いいよ。見ててあげる」
「見ないで。私……っ」
許しを求めるかのように、達した身体を震わせて香穂子は小さく叫び声を上げた。
離れの家に住んでいる俺たちは、どんなに大きな声を上げたとしても、それが本家の母屋まで響くことはない。
それがわかっていても、俺は、香穂子の口を自分のそれで塞ぐ。
── 香穂子の声は、俺だけのものだから。
「そろそろだよ」
香穂子がつらいのはわかっていて、なお、俺は自分の腰を深く押し進める。
収縮が収まらない香穂子の中を蹂躙する。
俺はつるりとした手触りのヒップを持ち上げると、やや乱暴に揉み上げた。
すっぽり掌に収まる胸とは違い、香穂子のそこは、豊満で柔らかい。
握り締めた指の線が、薄明かりの中、朱くくっきりと浮かび上がっている。
「ん……。欲しいの。先輩が欲しい」
ぶつかり合う肉声と愛らしい嬌声が、交互に俺を高みへと押し進めていく。
俺はなおも香穂子の腰を持ち上げ、垂直に責め立てた。
押し込んだ分身は、やがて熱いほとばしりを何度も繰り返す。
「あ……。あっ!」
その瞬間、香穂子は再び熱い波を越える。
細い指が、俺の背中の上、何かを探すかのようにさまよい続ける。
痛みさえも喜びに変わるのは、香穂子の行動すべては、俺が与えた刺激が起因していることを知っているからだ。
「熱いの……。まだ、残ってる」
歌うように呟く香穂子を抱きしめると、弛緩した身体をそのまま、香穂子に預ける。
「やっと、お前を大っぴらに可愛がることができるようになったからね」
男の身体は、やはりそれなりに重みがあるのだろう。
香穂子はけだるげなため息をついて、俺の背中に手を這わした。
── 子ども、か。
自然に、頭は冷静に、半田の顔を思い浮かべる。
俺が、罪悪感など感じなくていい。感じる必要もない。
半田は、確実に、柚木の家に不利益なことを、数年に渡って行っていて。
俺は、俺の権限の範囲で、最善を尽くした。
これから先、俺の善意を逆恨みすることもないだろう、とも思える。
だが……。
「梓馬さん?」
あいつにも香穂子のような愛しい存在がいて。
俺は、その存在をも悲しませているのか、と思うと、やり切れない思いが浮かんでくるのも、事実だったりする。
「ま、俺も頑張らなくてはいけない、というところかな?」
「ん……」
こいつを守れるように。
香穂子は、俺だけを頼って堅牢なこの家に飛び込んできた。
いろいろ苦労はあるだろうに、毎日、懸命に俺の家族にとけ込もうとしている。
2人の兄嫁は、元々気位も高く、この家に馴染む努力もしなかったことを思い出す。
また、年の近い雅とも、今まで通り親しく行き来をしていると聞いて、気持ちがほっと安らいでいくのがわかった。
「いや、俺がいなくなったら、お前はどうなるのかと思ってね」
香穂子は俺の髪をかき上げ、黙って続きを聞いている。
「どうやら、すぐに新しい男を見つけるほど、器用な女でもないらしいし」
「ん……。本当に、どうしたらいいんでしょう?」
「馬鹿。本気にしたの?」
真面目に聞き返してくる香穂子が、可愛くて、面白い。
「俺はお前をおいてどこにも行かないから。安心しておいで」