*...*...* Lesson 2 *...*...*
午後6時。刻々と日は翳り、人の影を長く濃くかたどる。
西の空には下弦の月がおぼろげに姿を現し始めた。
「柚木サマ〜。今日もお疲れさまでした」
「ああ。ありがとう。君も気をつけて帰ってね?」
『ふふ。日野さんは、まだヴァイオリンの扱いに慣れていないからね』
そんな理由で香穂子の登下校を車で送迎するようになってから、かれこれ3ヶ月。
音楽科に転科して、毎日生き生きとヴァイオリンに取り組んでいる香穂子を見るにつけ、
『ヴァイオリンに慣れていない』
という理由はやや軽薄さが伴うような気もしないでもなかった。
案の定、挨拶をしてきた女は、俺が迎えにきた車に乗らないことに不思議そうな表情を浮かべながらも、
やがて、丁寧な会釈をすると校門へと脚を向けた。
(……まいったな)
香穂子と月森。
さっき偶然目にした光景が、俺の脳裏に滲み、広がっていく。
朴念仁の月森のことだ。
あれは彼らしいレッスンの一環、ということか。
それとも、香穂子に特別な思いがあって、ああいう行為をしたのだろうか。
一方の香穂子は、といえば。
なんの思惑もなく、いつも俺に向ける従順さで月森に対しても接していたのだろう。
『私、柚木先輩がいい』
そう、気持ちを確かめ合ったのはほんの数日前。
不器用なあいつが、やすやすと月森に気持ちが揺らいだとは思いがたい。
── だが。
あいつは女で。月森は男で。
月森がちょっと力を込めれば、女のあいつが抗うことは難しいだろう。
自分のものだと認識している存在が、何者かに、手荒に踏みにじられる。
今まで想像だにしていなかった事実に出くわしたとき。
そのとき、俺は、俺自身の自尊心とどう折り合っていくのか。
「……柚木先輩」
かつん、とレンガを蹴るような音がして振り返ると、そこには怯えたように目を見開いた香穂子が立っていた。
「香穂子、遅かったね」
夕焼けを背に、香穂子はぱたぱたと早足でファータ像の前にやってきた。
逆光で、表情まではわからない。
だけど、か細い、おどおどした声は、今朝とは明らかに違っている。
「あ、あの……っ、私!」
「行こう? 11月といえども、日暮れを過ぎると急に冷え込むから」
香穂子の告げる先も聞かずに、俺は香穂子の背を押し、車に乗り込んだ。
*...*...*
「今日は遅くなってもかまわないでしょう?」微かにうなずく香穂子を見て、俺は運転手の田中にいつもの場所に行くようにと指示を出した。
朝の登校のときより、こぶし2つ分空いた、香穂子との距離。
香穂子は観念しきったように俺の顔を見ては、ため息をついている。
田中の手前、なんて言っていいのか分からないらしい。
上手くシラを切り通すということもできない様子に、却って俺の方に余裕が生まれる。
香穂子の手を引き、シティホテルの一室に入ると、俺は背を向けている香穂子に向かって声をかけた。
「まったく、お前はわかりやすいね? 俺はなにも言ってないのに」
「あ、あの! 放課後のこと……。柚木先輩は怒ってないの?」
「なに、お前。お前はなにか俺に怒られるようなことをした記憶があるの?」
「それは……っ」
「おいで。香穂子」
俺は香穂子のすっかり強張っている身体を抱きかかえると、掌の中のあごを持ちあげた。
「いいんだよ。月森のレッスンがお前に役立ったのなら、それで」
「だけど、柚木先輩……」
「俺は、フルートやピアノの指南はできても、お前にヴァイオリンは教えてやれないから」
香穂子は納得しかねるのか、俺の腕の中、不安そうに首をかしげている。
「で? 月森はなんて?」
「はい。あの……。私のヴァイオリンを弾くときの体勢が、少し背中を反らせすぎてるんですって。
このまま長時間練習を続けたら、背筋を痛めるかもしれない、って」
「……そう」
「だから、あの……。えっと、柚木先輩がちょうど通りかかったのはそのときかな、って思います」
俺は香穂子の白い上着を肩から滑らせると、臙脂色のタイを外した。
淡いパープルのブラウスは、白い頬を持つ香穂子にとてもよく映えている。
だけど、頬から、首筋、胸元へと続く白さを知っている男は俺だけだろう。
俺はゆっくりと耳の後ろから首筋へと唇を這わしながら、ブラウスのボタンを外した。
なにも付けてないんですよ? という香穂子の胸元からはいつも菫のような春の花の香りがする。
「背中や指は、仕方ないかもしれないけど……」
「はい……?」
「こういうところは、他のヤツに触らせてはダメだよ?」
俺は華奢な下着から弾力に満ちた胸を取り出し、その頂きを口に含んだ。
きょとんとしていた固い蕾は、舌の上、やがて柔らかく溶け出していく。
「……や……っ。恥ずかしい、です……っ」
香穂子は部屋の明るさに怯えたように首を振りながらそう言いながらも、内から生まれる感覚に抗えないのだろう。
もっと触れて欲しそうに胸を突き出してくる。
好きになった弱味、なのだろうか。
素直に感じ始めている香穂子を、ただ可愛いとだけ思う自分がいる。
俺は知らず独り笑いを浮かべた。
「ほら。月森に言われたんじゃなかったの? 上体を反らしすぎてる、って」
「は、はい……?」
敏感になっているのだろう。
そっと背中に手を這わすと、香穂子は小さな叫び声を上げて、俺にしがみついてくる。
── 誰一人、知らない。
その手のことなんてなにもわかってないような清純そうな香穂子が、少しずつ壊れていく姿態を。
最初の頃は痛がってばかりだったこいつが、少しずつねだる様子を見せ出していること。
快感を求めて、自身の体を揺らすことを覚えた腰も。
香穂子の体躯の凹凸を掌に感じながら、俺は徐々に自由を無くしていく身体ベッドに横たえた。
「早く、どうにかなりたいって思ってる?」
「……わ、わからない、です」
恥じらいも手伝ってか、香穂子は朱らんだ顔を背けた。
その途端、俺が何度も口付けた形の良い耳が、露わになる。
俺は赤い髪をかきあげ、その耳に挟むと、再び耳殻に舌を差し込んだ。
「へぇ……。自分の身体なのに、わからないんだ」
乱れた髪。胸元だけ はだけたブラウス。
そこから見え隠れする2つの頂きは、香穂子の荒い呼吸と共に上へ下へと揺れている。
「教えてあげようか?」
「なに……? ……あ!」
ふわりと広がった濃緑色のスカートの中、俺は下着の脇から指を滑り込ませると、直接香穂子の内部に触れる。
いつもだったら、何度も布の上からその丸みに触れることで、香穂子も覚悟らしいものを作って。
その後、ゆっくりと可愛がる、という感じだったから、突然の行為に香穂子の身体の方が慌てたらしい。
いきなりきゅ、と俺の指を締めつけると、息を詰めて俺を見上げた。
「……すごく濡れてる。欲しいんだって」
フルートキーを塞ぐような気持ちで、ゆっくりと香穂子の中を愛撫する。
蜜とともに、花芯も徐々に頭をもたげ、触れて欲しそうなそぶりを見せている。
俺が親指で触れると、香穂子の身体はそのたびにピクピクと波打った。
「この子はいったいなにが欲しいんだろうね? 指? それとも俺自身?」
今まで指で触れて、痛がるということはなかったけれど。
男の自分とは違うその部位は、いかにも繊細でいたいけに見える。
「ここも、俺だけのものだから。── よく覚えておくんだよ?」
香穂子の耳元でそう囁くと、俺は花芯を唇で愛でるため香穂子の膝裏に腕をかけた。