玄関に置かれた鞄。
 リビングへ続く廊下に転々と散らばっているのコート、スカーフ。

 俺は待てなかったのだ。
 自分の部屋どころか、リビングまでも。

 の身体を抱きしめながらも、不可解な思いが交錯する。

 仕事であれなんであれ、女と絡んでいたのは、俺、で。
 不安な気持ちを抱いたのは、、だ。

 が、その不安を膨張させて俺に『抱いて』とねだるなら話はわかる。

 なのに俺は逆だ。
 を不安にさせたであろう俺が、俺自身の中で勝手に育て上げた不安をにぶつけてるのだ。

 俺は廊下のつきあたりの壁にの背を押しつけた。

「こうしたかった。ずっと……」
「あ、あの、わたし、汗かいてるかもしれなくて……」
「ああ……。おまえの匂いがする」

 困ったように見上げるの首筋にゆっくりと舌を這わした。
 この匂いに浸りたかった、と言ったら、ますます頑なに身体をよじらせるだろうからそれは黙ったままでいる。

「……ひゃっ」

 の身体が大きく揺れた。

 俺はもうすべてを網羅していた。
 の身体中、至るところにある官能のスイッチ。
 それはあらゆるところに張り巡らされていて、の体内で一本の線になる。

 だんだん大きく、熱くなって、体外へ流れ出る。
 声となり、蜜となる。身体の自由が効かない麻酔の役目もする。

 俺はセーラー服を荒々しくたくしあげ、淡い光沢のあるキャミソールの下に手を伸ばした。
 小ぶりながらすっぽりと手のひらに収まるふくらみの感覚がいつものように俺を安心させた。

「やっぱり、おまえのここ、いいな」

 俺のなすがままに形を変えていく白い肉。
 頂きは刺激とともに色付き、突き出してくるのがわかる。
 持ち上がってきた突起の色が見たくて、俺はキャミソールも押し上げた。

 ここにものスイッチがあって。

 音を立てて吸い上げれば、やがて俺にとって心地良いの声が聞ける。
 そう思って、俺はいつもの愛撫を繰り返した。
 ……けど。

「……んっ」

 薄暗い廊下の照明の中、淡い桜のゼリーのような突起はかすかに震えて喜んでいるのに、は喜んでいないようだ。
 ……少なくとも心は。
 流れ出てくる涙は冷たくて、官能から引き出されたモノではないことが伝わってくる。

「……どうした? 足りないか?」

 まだ、わだかまりがあるのか? の心に。

「お願い、珪くん……。今、こうしてるとき、だけ、は……」
「……だけは?」

 音を立ててしゃぶりつく。
 隠微な音だけが暗い室内を生暖かくしていく。

「他の女の人の、こと、思い出さないで? ……お願い」

 最後の言葉は泣き声だった。

 『こうしているときだけは』

 つまり抱いているときだけは、ということか?

 俺は冷静に自分の言ったことを振り返る。
 こういうとき、口数が少ないのも、記憶力があるのも便利だ。……すぐ思い出せるから。
 ……そうか。
 の胸を揉みしだいて、
 『おまえのここがいい』
 と言ったことを気にしてるのか。

「……他の女なんて興味ない。いつもおまえのこと、想ってる。どんな女を見ても、触れても……」
「珪くん……?」
「止められない。……おまえのここがこうなるように」

 俺はの前に跪いた。
 スカートのファスナーを下ろし、の足を取って肩にかけさせる
 そしてすでに役割を成さなくなった薄い布を持ち上げた片足だけ脱がせた。
 小さなハンカチのようになったそれは、音もなくもう片方の足元に落ちる。

「溢れてる。……もったいないな、このままじゃ」

 ぴくんと腰が揺れる。開かれた入り口は花の香りを発して俺を誘った。

 下からの表情を伺う。
 淡い翳り、その上にある滑らかな臍、引き締まった腰。その先に続く赤く染まった2つの実。
 更にその上に、羞恥におびえたようなの顔があった。

 俺に余裕がないせいだろう。
 の表情は、あまりに早い展開に引きずられていると言った方が正しそうだ。

 両手での赤い実に揺さぶりをかけながら、ゆっくりと舌全体を溝に這わせる。
 甘い香りとともに、あえぎ声も広がる。

「……おまえの一番弱いところ、だよな?」

 淡い草陰の中に潜んでいる小さな突起を吸い上げる。
 するとは切なそうに俺の頭に指を差し入れてきた。

「出ちゃう、の……。やぁ……っ」
「……美味い、おまえの」

 もっと快感を引き出したい。不安も一緒に。
 おまえも溶けて、不安も溶けるなら。
 そんなおまえを見ていられるなら、俺の不安も消える、から。

「美味い、の……?」
「ああ、おまえも知ってるだろ? この前、俺の指、舐めてたから」

 そのときの痴態を思い出したのか、がさっと顔を赤らめたのが暗がりでも分かった。

 蜜口が窄まる。それと同時に、さらりとした蜜が脚の内側を伝っていくのを感じる。
 俺はそれを指ですくい上げると、の口に押し入れた。

「……んっ!」

 そしてそのまま二本の指でゆっくりとの舌を愛撫した。

「……美味いか?」

 は返事をしようとしない。
 ……普段は素直なのに、な。
 無理矢理顔を見上げると、泣きそうな顔をして目をそらしている。

「……言えよ、本当のことを」

 舌と指を蠢かして。
 俺は頂きに添えていた指を、蜜口に押し込んだ。

 そのまま2つの口の内部を引っ掻くように愛撫する。
 花芯が膨らみを増してくるのを口内で感じる。
 は、言葉にならない嬌声を挙げて快感から逃れようと腰を引いた。

「逃がさない」
「……や、珪くん……っ。こんな格好で、わたし……。こんなところで? わたし……っ」

 肩にかけていない方の脚が、膝から揺れ出した。

 乱れて。
 乱れきって、女の部分を出し切っているのに、が漂わせている空気は真っ白なままだ。
 俺は蜜口に入れている指を手前に引き戻すと、突起を上に向かせた。

「支えててやるから。……見せろよ。俺に」

 のそこは潤いを通り過ぎて、さらさらとした蜜を出し続けている。
 それが俺の手首まで伝った頃、は、一瞬身体を大きく震わせて悲しげな声を上げた。
*...*...*
 2階の俺の部屋。
 俺はあのまま立ち上がれなくなったを抱きかかえて、ベットの上に横たわらせた。
 肩で息をしているの横で、制服を脱ぎ、ネクタイを外す。
 そんな俺の様子をは不安そうな顔で見つめる。

「……なんて顔で見てるんだ、おまえ」
「今はダメ、だよ……? ムリだもん」
「何がダメなんだ? おまえの中に入ること?」
「……ん」

 は、真っ赤になって消え入りそうな声で頷いた。

 何度身体を重ねても、にはこんなところがある。

 ……恥ずかしい、のか?

 俺は事実をそのまま言っているだけなのに、たまにその言葉がひどく彼女を煽ることがあるらしい。
 『煽る』という言葉は、きっとから見れば的確ではないのだろうけど。

「俺は何度でも欲しい。おまえのこと」

 俺はシャツを脱ぎ捨てた。
 もどかしいまでにベルトが堅い。やっとのことで抜き取ると、ズボンとともにそのまま床に放りだした。

「……おまえは欲しくないのか? 俺のこと。……さっきあんなに締め付けてたのに?」
「そんなこと、真顔で言わないで? ……や、んっ」

 快楽という麻酔の効いたの中心を開かせる。
 そこはまださっきの行為の名残が周辺を光らせて、限りなく淫靡だ。
 俺はの身体になじませるため、自分の分身にの蜜を塗り込む。

 そんな些細な行為さえも、にはすぐスイッチが入る。
 小さなあえぎ声と一緒に涙がこぼれ落ちるのが見える、

「……いくぞ」
「……ああっ……。珪く、……」

 中に自身を押し込むと、指のときとは全く違う快楽がを囲むのか、急激に中の伸縮が激しくなるのを感じる。
 かすかにの身体が震え出す。
 の弱いところをしつこいまでに突き上げると、涙も蜜も止められなくなったのか、シーツのあちこちに丸い水滴が飛び散った。

 自分自身で好きな女を乱すことは、少しだけの背徳感と、比較できないほどの満足感がある。

「わたし……。もうっ」

 掴まるものがないと自分が支えられないのか、はシーツを掴む。
 身体が熱くなってくる。
 細い脚がすがりつくように俺の腰に絡まった。

「まだ、だ」

 俺はたわいないほど柔らかくなったの身体を抱き起こし、膝の上に乗せた。

「……教えてやるよ。俺がどれだけおまえのことが欲しいか」

 頂きを口にくわえ片手を背中に這わす。
 そうすることでの色づいた弱いところが俺の口から飛び出さないようにする。
 もう片方の手は背中から続く無防備な双璧へ。
 背中越しに見るそれは先の方だけかすかに色づいてきて本当の桃のようだ。

 角度がきつくなったのかは小さな叫び声を上げた。

 それさえも口封じをするかのように頂きの吸い上げをきつくする。

 なあ、どうすれば伝わる?
 身体を繋げて。言葉を伝えて。

 ── それでもまだ、足りない。

 自身をの最奥へと突き上げながら俺は考え続けた。

 女のモデルとの絡み。の痛み。
 根本原因が存在する限り、俺の今の行為は上滑りになるのか?

 それ以上に。
 の傷ついた気持ちは修復できるのか?

「……

  の身体の中心の突起を擦るように腰を揺らす。
 終焉が近いのかの内部が激しく収縮し始める。
 同時に自分の高尚な考えは、今目前にある高ぶりをどう処理するのかということにだけに集中する。

「来いよ。……受け止めてやる」

 俺はの腰を持つと10数センチの自分の分身にすべてを委ねて、彼女の内部を味わい尽くす。

「……珪、珪……っ」

 俺はを満たした後、大きなうねりの中、俺自身を解放した。
*...*...*
 行為の後のは、台風が通り過ぎた後の花壇のようだ。

 俺がその台風の目で。
 凛と孤高に咲いていたのを、その香りも握りつぶして、花びらさえも飛び散らせた。

 は大きく息を吐いている。
 その様子が突風後、最後に残っている花びらの一枚を思わせて。

 力を失った俺自身がずり落ちるとき微かに眉を寄せたものの、の下半身は微動だにしない。
 の脚の内側には、俺の幼い体液がを伝っていくのが見える。

 (こういうところが、愛しすぎる、というのか?)

 俺は床に落ちていたブラウスをの身体にまきつけて抱き起こした。
 ぽっかりと開いた目は俺を認めると弱々しいヒカリを宿して細くなる。

「……一緒に住むか、これから」

 何気なく出た言葉だった。

 でもそれは口に出して、言葉にして。
 その言葉が相手に理解可能な言葉で。
 確実に伝わったと俺が認識したとき、俺の中では動かしがたい強い意志となっていた。

 そうすれば、こうやっておまえが不安になったとき、ちゃんと抱いてやれる。
 言葉が足りない分、身体を傍においてやれる。

 ……なんて。

 そんなことは嘘だ。
 の不安につけ込んで、俺がおまえのそばにいたいだけ。
 きっとそれだけなんだ。

「……うん」

 はこくりと頷く。
 そして自分の居場所を見つけたかのように、俺の胸の中で小さくなると身体をすり寄せてきた。

 ……どくん、と俺の中で熱いモノが蠢く。

 たった今、解き放ったばかりの快感を、もう一度手にしたい、と。
 こいつと何度でもしたい。飽きるほど、したい。一体感を味わいたい。一緒に最後を見つけたい。

 そんな強い気持ちが自分の中から沸き出てくる。

 俺はの額の髪をかき上げて、まじまじと腕の中の少女をのぞき込んだ。
 ……こんなにあどけないのに。こんなに華奢なのに。

 でもこの心地よいぬかるみの空気の中、いつも思うことがある。

 こいつは、どんなふうにでも俺の意のままに形を変える水の精みたいだ、と。

 行き着く直前には、俺との身体の境目がなくなるくらい柔軟になる。
 でもの中だけは奥の方から少しずつ締め付けと震えがキツくなって。
 ちょっと気を抜けばそのまま押し返されてしまいそうな狭さになる。

 を抱くまで知らなかったこと。
 それは、男にもこれほど強い快感が起きるということだった。

 (、だからか?)

 欲しいと思っていた彼女の心と身体、両方を入れたから……?

 腕の中の生暖かく柔らかい肉体が再び自分の胸に押しつけられる。

 いくら求めても飽きることがない。
 今日が終わればまた明日、明後日。
 求めることを止められない。止らない。

 ……終わりがあるなら教えて欲しい。こいつを壊してしまう前に。

「……っや……っ」

 俺は、達したばかりのの熱い身体をもう一度撫でつけた。
 一つの行為の始まりを、もっとこいつの身体を刻みつけるために。
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