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*...*...* Destiny 2 *...*...*
 終業式も無事終わり、今年も残すところあと少しとなったころ。
 冬休みに入った今、通常なら騒がしいまでに賑やかなカフェテリアも、教職員のための簡単なランチを提供するだけの縮小営業になっている。 寒さが厳しいせいだろう。金澤さんはトレーにパスタを載せ、肩をふるわせながら私のそばに近づいてきた。
 
「ったく、寒いよなあ。学生さんには冬休みってのがあっていいな。 『来年から職員にも冬休みを!』って、これって吉羅に言えば叶うのか?」
「さあ、どうでしょうか? 私よりも、古いしきたりに皮をかぶせたような副理事たちを 取り込んだ方が得策だと思いますが」
「ははっ。お前も1年経って、根回しってのか? そういうのが上手くなったよな」
 
 新しいことに対し、必ず否定から入るお偉い方を思い浮かべる。 かつて甘い蜜を吸った人間は、いつまでもその利権を放そうとはしない。前例を重んじ、改革を改悪という。 それに対抗するには数値を見せることが有効だ。 ああ、そうだ。来年に向けての経営方針について、もっと具体的な数値を盛り込むようにしてみたら、 もっとスムーズに話は進むだろうか。
 
「それにしても、どうして霧島も、いきなりお前の前に現れたんだか」
 
 金澤さんはパスタの上に粉チーズをたっぷりと振りかけながら、世間話の続きのように話を切り出した。
 
「ヘッドハンティング。彼の言葉のとおりでしょう。それ以上でもそれ以下でもないと思いますが」
「はーん。……どうだか。お前、あれからなにか聞いたか?」
「最初に切り出されたとおりでしたよ。年俸10割増しで、都内の女子校が私を引き抜きたいとのことでした」
「お? おお!? ホントか? 吉羅。お前、すごいな!」
 
 霧島さんの話はシンプルで単刀直入なものだった。来年の4月からの赴任。今月中に……、とはいえ、あと数日しかない、の決断で10割増しの年俸。それにインセンティブが付く。なるほど、見るからに好条件だがあまりに性急すぎる。そこにあの人の浅からぬ意図がある気がするのは私の性格が疑り深いからなのか。
 
「まあなあ。我が星奏学院の理事長さんの名声が、都内まで知れ渡ってるってのはイイことだよなあ」
 
 金澤さんはくるくると器用にフォークを動かすと、トマトソースのパスタを平らげていく。 一見大雑把に見えて、それでいて綺麗な振る舞いに、私は彼の歴史の一端を見る気がする。
 
「まあ、まだ根に持つとか、そんなんじゃないとは思いたいね、俺は」
「……私もそう願いたいですね」
 
 私はそそくさと食事を終えると、テーブルに置かれていたナフキンで口元を拭う。
 霧島裕貴。金澤さんの同級生で、私と一緒にコンクールを競った仲間だ。 コンクールに参加している間、いや、もっと厳密に言うなら、姉が亡くなるまでの間。 私と姉、それに金澤さんと霧島さんはそれこそ唯一無二の存在のように、毎日会い、毎日会話を交わしていた。 会話がないときにはたえず音楽があった。 あの人の視線がたえず姉の上で止まることは知っていた。 しかし姉自身がヴァイオリンしか見ていないことを彼は痛いほど察していたのだろう。 あの人はある一定の距離を間に、仲間の1人としてそばにいた。 彼の、姉を見つめる視線は痛々しいほど真剣で、 それを見ている周囲の人間が茶化すことができない類のものだったと今でも思う。
 あの人が豹変したのは、姉が病で倒れてからだった。
 
『暁彦。霧島くんには、黙ってて』
『姉さん、でも』
『……今の、あの人には、コンクールに集中してほしいの。余計なことに気を遣わせたくないの。……だから、お願い』
 
 姉の懇願に負けて、私と金澤さんはずっと姉の病状を隠し続けた。 ちょうどその時期、霧島さんはウィーンの国際コンクールに参加していたから、隠すことは容易だった。 電話で、メールで、風邪を引いたようだ。具合がすっきりしないなど、姉の病状を曖昧な言葉で濁し続けた結果、 彼が姉の病態を知ったとき、姉の意識はほとんど無く話もできない状況だった。
 
『美夜と話せないって、どういうことだよ! 吉羅。なんとか言えよ!!』
 
 現実を知った霧島は私の胸ぐらを掴んで私をなじった。亡くなったときは半狂乱になった。
 
『なあ、吉羅。冗談だろ? 俺がウィーンのコンクールに行く前。あれはいつだ? たった1ヶ月前だぜ? 1ヶ月前には、美夜もお前も。みんなで空港まで見送りに来てくれただろ?  それをなんだ。からかってるならいい加減にしろよ。美夜の意識がない、ってどういうことなんだよ!!』
 
 人生には、いろいろな局面で後悔することはあるという。 私がもし今までの人生の中で後悔することを挙げろと言われたら、なにを挙げるのか。 姉のこと。霧島さんのこと。……そして今後、香穂子との別れがあるとするなら、香穂子とのことだろうか。
 姉の死は、私自身の人生の中で、突然訪れた落とし穴のようだった。 私自身も家族も、まだ完全に彼女の死を受け入れていないといってもいい。 霧島さんもまた私と同じく、姉の死を受け入れていない。そう考えることはむしろ自然だ。
 金澤さんはごくりとのどを鳴らして水を飲み干すと、窓に映る冬枯れの空を見てつぶやいた。
 
「言っても仕方ないことだが……。あいつは、霧島とお前、2人の男の心に穴を開けていったよなあ」
 
 私は持ち上げたコーヒーカップに口を付けることなく、ソーサーに戻す。
 もし姉が亡くなっていなかったら。もう取り返しようのない過去を夢想しても仕方ないのかもしれないが、 私はどうしていただろうか? なんの迷いもなく音楽の道を極めていただろうか?  今の私には答える術がない。音楽家への道は厳しく険しい。ヴァイオリンだけで生計を立てられる人は限られている。 だが、姉の死がなかったら、私はこれほど音楽を忌み嫌うこともなかったような気がする。
 ──── だが。
 自分で『音楽を忌み嫌う』という感情が浮かんだことについて、違和感があることに気づく。今の私は、『音楽を忌み嫌っている』といえるのだろうか?  香穂子がヴァイオリンを肩に乗せている姿。彼女が作るメロディ。一緒に行くオペラ。とある旋律を美しいと想い、聞きたいと願う。音楽の世界に、彼女がいることに喜びを感じる自分を、今の私はどう定義するというのだろう。……数値。数値、か。学校経営のように自分の感情もたやすく数値化できれば、人の感情というのはもっとシンプルに操れるようになるのだろうか?
 不安げに私を見上げている金澤さんは、先輩というより、仲間。身内のような 存在だということに気づいて私は微笑した。 この人にも、どうか、この人が納得できる人生が開けるように。そう願わずにはいられない。
 私は冷えたコーヒーを飲み干すと、トレーを手に立ち上がった。
 
「星奏学院の建て直しを始めて、ちょうど1年が過ぎましたね」
「……は? あー。まあ、そうだな」
「私もそれなりにこの学院に愛着が沸いて来たところでしてね。今更放り出す気はありませんよ」
*...*...*
 仕事納めを終えた翌日、私は香穂子を誘って、鎌倉までドライブに来ていた。
 彼女の状況が許せば、2、3日暖かいところでのんびりすることを提案したいところだったが、受験生に無理は言えない。
 
「君の受験が終わったら、どこか遠出をしようと思うがどうだろうか?」
「本当ですか? 嬉しい」
 
 学院の近辺や都内では知った顔も多いだろう。そう思って遠出した街は、多少寒さは厳しいものの、 暮れの賑わいが華やかさを保っていた。
 香穂子は通り沿いにある小さな店に顔を覗かせては、楽しそうに目を輝かせている。私と香穂子の間にはどんなときも音楽があって、それを当然と捉えていたけれど、 私と彼女との間には目には見えない小さな重なりが生まれ、それが今は一つの地盤になっているのだろう。 普段まるで目も止めない小さな雑貨が、彼女と見るととても魅力的なものに見えてくるのが我ながら面映ゆい。
 有名な境内を一巡したあと、彼女は暮れの空気を思い切り吸い込んだ。
 
「1000年くらい前に、この場所に頼朝がいたんですね。そう思うとなんだか不思議」
「そうだな。昔から続く流れを、私たちも受け止め、次の世代に受け渡していくのだろう」
「はい……」
「人の命の短さと比べたら、音楽は息が長い。今我々が夢中になっているクラッシックは生まれてから300年経っている。 そして、私が思うに1000年のちの世界にもまだ存在しているだろうね」
「じゃあ、これから1000年の間に、クラッシックに代わるような音楽が生まれるんでしょうか?」
「生まれないだろうね」
 
 スキップするような軽い足取りで歩いていた香穂子は、シンプルな私の回答が不思議だったのだろう。 あどけない目をして振り返った。 ベージュのダッフルコートに、臙脂色のミニスカートが差し色になって、日頃彼女の私服やましてや、後ろ姿を見つめる機会もない私は、 その姿を焼き付けるように目をあてる。
 
「どうして?」
「この世に娯楽が増えすぎたからだと私は考えている」
「娯楽……?」
「クラッシックが生まれた時代は、今ほど文明が発達していなかった。 音楽を極める者は3歳の頃から、学校も行かず音楽だけに没頭できる環境があった。 今は、便利な世の中ゆえ、不便さもまた増えた。均一な教育。不便のない生活。 そのようなアイテムが、可能性や才能を消すことだってままあると私は考えている」
「そうですね……。モーツァルトも、ショパンも……」
「彼らは刹那的ともいえるね。刹那的な生を生きたからこそ、あれほどの名曲が生まれたのかもしれない」
 
 香穂子はモーツァルトの一節を口ずさむ。瑞々しいまでの唇が小さく開いたり閉じたりするのを見て、心の中で溜息をつく。 ──── まったく私は、一体何歳になったというのだろう。人混みの中でよかったと心から思う。彼女の艶めかしい唇や、その奥の歯列。柔らかな舌。熱いくらいの温度と湿り気。それに続く甘い蜜を今、感じたくて仕方ない。
 紅葉というにはちょっと時期が過ぎていたが、それでも境内を覆うイチョウ並木は、彼女の頬をより明るく見せている。
 
「そうだ、吉羅さんお願いがあるんです」
 
 香穂子はカバンから小さなデジカメを取り出した。
 
「カメラ?」
「はい。1枚だけでいいんです。吉羅さんの写真、撮らせてもらっていいですか?」
 
 日頃、自分に愛想が無いことは重々承知しているのだが、やっぱり、というべきか、私が映った写真に笑顔の写真は一枚もない。金澤さんに至っては、 『どうしてお前って、いつも仏頂面しかできないんだよ?』と揶揄しては笑っている。
 
「写真など。会えば顔は見えるだろう」
「はい……。でもお願いです。1枚だけ」
 
 渋い顔をする私に香穂子は屈託なく笑う。デジタル世代、と銘打たれた年代だけに、写真というのに大きな違和感も隔たりもないのかもしれない。
 
「私はあまり自分の顔が好きではないのでね」
「……私は、好きですよ? 一度吉羅さんに、私が見ている吉羅さんを見せてあげたいくらい」
 
 惚れた弱みともいうべきか。香穂子の言葉に自然と笑みがこぼれてくる。 ……この子は、まったく。なんと言ったらいいのか。 私の幼い頃、見ていた情景。昼寝のあとの緩やかな空間。初めて万華鏡を覗いたときの高揚感。優しい感情。 そういった、私にまだほんの少し残されているであろう甘い、柔らかい部分を両手で掬いあげて、抱きしめてくれる気がする。 ──── だから、この子を手放せない。
 
「あ、よかったらお撮りしましょうか?」
 
 人の良さそうな中年の男性が香穂子の手の中のカメラを指差して、シャッターを切るジェスチャーをしている。香穂子はシャッターのボタンの場所を伝えると、そっと私の横に納まった。
*...*...*
「今日は本当にありがとうございます! すごく嬉しかったし、楽しかったです」
「……やれやれ。君の行きたいと言っていた店には全部行けたのだろうか?」
「はい! えっと……、全部、行けました。ありがとうございました」
 
 海岸沿いの小さなホテルで、香穂子はポケットサイズのパンフレットに目を落とすと、赤い円のついている箇所を細い指で追っていく。 ドライブに行く、と聞いてからあれこれ調べたのだろう。 そんな何気ない様子に、この子も私と会うことを心待ちにしていたのだと感じられ、自然と私の頬も緩くなる。
 香穂子と一緒に行った店の中には、私の好みにしっくりと馴染む大人びた店も何軒かあった。 アンティークの文具が売っている店は、店内の商品同様、店長も古めかしかったが、落ち着いた空間が気に入った。 正月にイギリスに仕入れに行くという話だったから、年明けに一人で行ってみてもいい。
 香穂子はソファに座って、嬉しそうに鎌倉で買った品物をテーブルに並べて微笑んでいる。 その様子が可愛らしくて私は背後から彼女の身体を抱え込んだ。 セクシャルな行為というより、むしろ親愛の情を感じる行為だったのだろう。 彼女の身体は自然体で柔らかい。ふいに押さえきれないほどの愛しさが溢れてくる。私は彼女の肩にあごを乗せると彼女と同じ世界を見入った。
 
「吉羅さん……。ごめんなさい、聞いても、いいですか?」
 
 香穂子は少しだけ逡巡したあと、言いにくそうに口を開いた。
 
「なんだろうか?」
「その、吉羅さんって……。私よりずっと先を生きていて、それで……」
 
 こくりと白い首が揺れる。
 
「その……。今までも、その、今の私みたいに、大事にされた女の子って、たくさんいるんですよね?」
「……なにをいうかと思えば」
 
 私は香穂子の髪の感触を楽しみながら、香穂子への答えを考えていた。 過去の女の中には、私の過去をつぶさに聞いてきた女もいた。 聞く分には構わない。そしてその頃の私は愚かにも聞かれたことに対し、嘘をつくという智恵がなかった。答えない、という選択肢ももっとなかった。 そして自分が話したことに対して、後日苦々しく責任を取るのが常だった。 ……だが。
 
「君は聞きたいと思うのだろうか?」
 
 好きという気持ちの度合いが増すたびに、思うことがある。 もし私が、香穂子と同じ時代に生まれていたとしたら、私は香穂子とどういう時代を過ごしたのだろうか。 姉が亡くなってからの閉塞感。孤独感。音楽を忌み嫌う自分。避けて、憎んで。 自分のことも愛せなかった自分を、この子は許し、導いてくれたのではないかと思えてくる。 これほどまでに私の世界を変えてくれた彼女に、私は今、正直になるべきなのだろうか。
 私は彼女を抱く腕の輪を小さくすると、桃色に上気した唇を押しつける。
 しばらくそうしているうちに、否定の意味なのだろうか? 彼女はふるふるとかぶりを振った。
 
「ごめんなさい。自分で言い出したのに……。やっぱり聞かない、です」
「ほう。それはまたどうして?」
「……私、もし吉羅さんの初めてを聞いたら、きっと2人目も3人目も気になるもの。 そうしたら、いっぱい嫉妬しなきゃいけなくなる」
「なるほど。じゃあ、聞かないことにしておいてくれ。私も助かる」
 
 私はおどけたようにそう返事をすると、彼女もふっと笑顔になった。
 彼女にヴァージニティを求め、自分はどうだ? と尋ねられれば明らかに公平さには欠ける。 だが、彼女にとって私は初めての男であることに対する嬉しさは止められない。
 
「……今は君だけだ。過去は変えられないが、今と未来は変えていける。それで、許して欲しい」
 
 抱きしめている腕がやがて力を増し、彼女の弱いところを辿っていく。 彼女のすべてに触れて、彼女が気持ちいいと感じるすべてのところを見つけたい。 印を付けて、育てたい。自分だけの場所だと言いたくてたまらない。 徐々に生まれ始めている快感を、もっと強くする。 自分が求める以上に、彼女に求められたい。壊してしまいたい。
 冬休みということで、多少痕が残っていても人目に触れることはない、か。 私の判断は大胆にも日頃痕をつけたことのないところまで痕を残していく。首。耳の脇。肩。二の腕。 彼女の白い身体は面白いほど簡単に痕が付いた。
 
「紅葉したみたいだな」
「え……?」
「綺麗だ」
「いや……。見ないでください」
「それは、無理だな」
 
 一体私はこの子をどうしたいというのだろう。大切にしたいのに、苛めたい。可愛くてたまらないのに、泣かせたい。 私の限界のない要求を彼女に突きつけ、許しを請いたい。
 この子の身体は危険だ。底の無い沼のように私に次々と煩悩を浮かび上がらせる。
 私は彼女の身体を前に向けると、向かい合わせになる形で彼女の中に押し入った。 ソファの上、私の身体は弾みをつけて彼女の奥に忍び込み、彼女の弱いところを擦りあげる。 彼女は何度も締めつけを強くしながら鳴き声を上げた。
 
「吉羅、さん……」
「言ってごらん。気持ちいい、と」
「や……。や……」
「まあ、言わなくても君の気持ちはわかるがね。……さて。 君が私を求める声をもっと聞きたいと思ったら……。どうしようかな?」
 
 不意に律動を止め、私は彼女を盗み見る。 初め、訳が分からないといった表情を浮かべていた香穂子は、やがて本能の方が慌て、次に身体の動きに気づいたらしい。 覚束ない様子で自身で腰を振る。だが思うようにならないのか、泣き出しそうな顔をして私を見つめた。
 
「吉羅さん、……いや、意地悪、しないで」
「君の言葉が欲しい。……私に、どうして欲しい?」
 
 つん、と突き上げるように腰を持ち上げる。香穂子は私の肩に掴まって震えている。
 
「いや、ダメ……っ、そこは」
「仕方ないな……」
 
 緩やかな律動の中、香穂子はこれ以上なく身体を強ばらせる。甘い香りが強くなる。 背中を這っていた私の両手はふくよかな臀部を2つに分け、後ろの秘門に指を這わせていた。
 
「きっと君は、ここも感じられる」
「や、なに……?」
「わかるだろうか?」
 
 私は蜜のついた人差し指の第一関節をそっと忍ばせ、密かなリズムで揺らし続ける。 なんの抵抗もなく受け入れたそこは、香穂子の自覚を伴って、ぎゅっと入り口を狭くした。
 
「い、いや、いやぁ」
「……緩んできた。……ちょっと動かしてみようか」
 
 片手で彼女の腰を持ち上げ、結合を浅く深くする。深くするタイミングで指も深く入れる。 浅くするタイミングでひっかくように指を揺らし、その存在を知らしめる。彼女は2ヶ所からの刺激に、身も世もなく震え始めた。
 私は左手で香穂子を引き寄せると、隠しようがないほど大きくなった彼女の突起を自分の陰部にこすりつけた。 2つの丸い胸も私の胸板にあたり、形を無くしている。
 
「いいんだ。香穂子、よくなって」
「吉羅、さん……」
 
 腰を中心に沸き上がってくる震えを落ち着かせようと、私は口づけを深くする。 その瞬間、彼女にひときわ大きな波が襲い、中にいる自分を握り締めた。
 
「……今日も、可愛かった」
 
 放心したように力を失った身体を抱きしめながら、私は耳元でささやく。
 
 
 浮かんでくる愛しさを、いったいどうすればいいのか。自分でも収拾がつけられない。 なすすべがない。 そう考えて苦笑する。 この子はかつて私が抱いた女を気にしていたようだが、なんてことはない。 ──── こんな感情を抱かせる女の子は、私にとっては初めてなのだと。  
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